上に立つなら、技量を磨き、足元を固める

岩上 喜実

毎週えらそうな事を書いていますが、飲食店を始めてまだ5年と少し。接客経験は長くても飲食店技術はまだ5歳と少しな若輩者が、若輩者なりに毎日足掻いていることがあります。接客が+αになるとしても、飲食店なら美味しくなければならないということです。


担当しているフロアはドリンクも制作していますしお店にはエスプレッソマシンもあります。腕を磨くには、ただただ毎日勉強し淹れるしか無いのです。レシピはあってもレシピには書かれていない技術が必要で、何より意識をどこに向けて良いか分からず最初の頃はずっと戸惑っていました。

今淹れているコーヒーは本当にこの豆の良さを出せているのか、必死で勉強しているエスプレッソを使うドリンクはお客様にお出しできる代物なのか。オープン当初は一杯一杯が怖くて口に運んでいるお客様の表情が怖くて見ることが出来ませんでした。

そしてあまりにも私が自信なさそうなのを気にかけてくれたのがお店の豆を焙煎して下さっている方です。ふらりと足を運んで下さっては「コーヒー飲みたいな」と一言。緊張をあまりしない私でも手が震え、でもこの人に美味しいと言って貰いたいという気持ちで淹れていました。

「うん、美味しいね!」と笑顔が見えたとき、胸がいっぱいになりました。

しっかり淹れて、お客様の顔をしっかり見よう。しっかり向き合ってみよう。と決心しました。それからずっと、お会いしたら飲んでもらうようにして少しでも技量を高めたかったのです。

そしてもう一つの難関、エスプレッソの扱い方です。それまでカプチーノとカフェラテの違いも分からなかった私は粉をセットするのにも時間がかかり、出来ても苦味ばかりで美味しくありませんでした。悔しくて悔しくてオープンまで毎晩一人で練習し、やっとお店に出せる所まで来たとき、よく写真で見ていた「ラテアート」が出来ない事に気がつきました。出来なくても味には問題ないのですが、少しでもお客様が期待されていたら裏切ることになってしまう、と今度はラテアートの猛特訓をしました。何度やってもハートの形しか出来ず、やればやるほどグチャグチャになって頭には「どうしよう」で一杯でした。

悩んでいるときに催事で来ていた東京の有名なバリスタさんと何故か仲良くなり、悩みを話すと

「ラテアートはもちろん出来た方がいいけど、何よりお客様が喜んでくれるのが一番じゃない?のんちゃん(私です)のアートをしたらいいんだよ」
と一番私がその時言って欲しい一言をくれたのです。

この時も私は胸がいっぱいになり、一人一人のお客様の為に淹れたい。そして少しでも良い日だったなと感じて貰いたい。と思うようになりました。
その道のプロ二人に言って貰えた事が今でも心に残り、カフェを続けたいと感じた出来事でした。

それから定休日にはこっそり自主練をしたり、お店の閉店後に残って練習をしたりを5年続けてきましたが未だに反省することが多いです。淹れることももちろんですが、他の技術ももっと、もっと磨くことがあります。

あの時胸がいっぱいになった事を毎日思い出しながら淹れています。努力を続けていくとこんなに自分に自信が持てるものなんだと思います。

何かに自信が無くなった人は、周りの出来る人を見るのではなく、自分の技量を上げる努力をしたらいいのだと思います。自分の立ち位置や地盤や根っこが丈夫になればなる程、自信がつき、人は付いてくるのだと思います。自信の無い人に付いていくのは、誰だって嫌ですものね。

店長をしていて、初心を忘れないというのはとても大切な事だと感じます。その時に読みたくなる本、観たくなる映画やテレビドラマがあります。
それはまた、次回に。次回は、とってもゆるい記事になりそうです。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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