自分だけの永遠に愛せる雑貨⑦器

岩上 喜実

「これ買って良かったな」と感じる時は何となく使い続けて何年か経った後のような気がします。購入してすぐ「これいいな!」と感じる物は意外と数回で飽きてしまいますし、最初に「いまいち使いづらいかもしれない…」と思ったらずっと「いまいち」のままだったり。長く使っている物って使い始めたときの記憶があまり無い位、自然な流れで自分に馴染んでいって、ふとした瞬間に「これ買ってよかったな」と感じるのだと思います。


特に器は沢山の大きさや種類、そして様々な素材があり自分の一皿を見つけるのはとても大変な事だと思います。勤めていた雑貨屋には地元鳥取の器を取り扱っており、窯元に行き実際の作られる工程や仕上がりなどを見させてもらいました。


窯元に伺うまでは少しクールな風貌のあっさりとしたお皿が好きでしたが、鳥取市にある『因州中井窯の二色染め分け皿』を我が家の食卓に迎えてから、煮物や煮魚はもちろん、和え物や昨日の残り物を温め直した物など気が付けばこのお皿を使ってしまうのです。茶色くなりがちな食卓に優しい色味が華を添えてくれるので、何もしていなくても温かみと彩りを豊かにしてくれるのです。

適度な深み、厚みも心地よく、丁寧すぎない扱いでも耐えてくれる耐久性も自分に合っていたのだと思います。購入した物では無く、頂き物なので「買って良かったな」というより「我が家に来てくれて良かったな」と使う度に感じています。

 

他には『めいぼく椀の汁椀(櫻さくら)』をずっと使用しています。

つなぎ目などが無いシンプルで櫻の木そのものの椀ですが、10年使用して少しづつ口に馴染むように柔らかなフォルムになってきました。使われている木は「けやき」「なら」「くり」「ぶな」「くるみ」そして使用している「さくら」の6種類から選ぶことができ、当時さくらの木にしたのは一番自分の手に馴染んでいると感じたのでどこまで変化するのか見たかったのだと思います。これに合わせて購入したお箸もさくらの木にして、今はどちらも濃い茶色に変化し我が家に無くてはならない存在になっています。シンプルですが中井窯のお皿におにぎりとお漬け物、めいぼく椀にお味噌汁、それだけで幸福な気持ちになるのは器の力がとても強いのだと思います。

 

ですが器好きの母の元に育てられた私が1枚と1つの椀で毎日が満足できる訳はありませんでした。特に小さい小鉢にちょこちょことお総菜を入れて食べるのが好きなのでフリーカップを小鉢として使用したりポタージュを入れたり、ピクルスやお漬け物を入れたりと大活躍している器があります。


『工房32豆のフリーカップ』は最初お客様用のお茶をお出しする時用に特別に作5つ作って頂いたのですが、よく考えてみると家にお客様を呼ぶことがあまりなく、このままだと出番が少なくなってしまうと思い急遽小鉢に変更したのです。小鉢になったフリーカップは大変使い勝手が良く、和食にも洋食にも合いオーブンやレンジにも使用できる『フリー』さがとても気に入っています。本来の目的だったお茶用にも使いますが、隣には小さめのおやつも入れて使うことも多いのです。

奥の急須は南部鉄器の一人用、こちらも長年愛用していてフォルムがとっても美しいです。

 

器は世の中に沢山あって、私もまだ欲しいのがいくつかあります。

ですがまだ料理があまり上手じゃ無かった頃の私や、失敗した料理を美味しいと言って食べてくれた主人の顔など色々な想い出と共に長年使用して我が家の物になっていく器は、なにものにも代えがたく、とても愛おしい存在となっています。

自分の生活を見守ってくれている器は、きっと自分の鏡のような存在なのかもしれませんよね。

 

あなたのお気に入りの器はなんですか?

色んな人に聞いてみて、その人を知りたいなと思います。

では、また日曜日に。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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