自分だけの永遠に愛せる雑貨⑫1人掛けソファ

岩上 喜実

断捨離という言葉が世間に浸透して数年になりますが、シンプルな暮らしや余分な物を持たないのが良しとされる風潮になっているのを感じます。

もちろんシンプルだと気持ちが良いですし、無駄と思われる物を最初から持たないのは憧れますが、すごく必要ではなくてもあれば気持ちが高揚する、そんな雑貨が自分のテリトリーにあると嬉しくなる、そのバランスが大切なのではと思っています。 

最後の雑貨の紹介は、私自身が一番落ち着く家の『一人掛けソファ』です。

20代後半に訪れた私の中の謎の椅子ブームが終わろうとしていた頃、椅子もいいけど一人でホッとする一人掛けのソファが欲しいなと思っていました。何も考えず入った男性の洋服屋さんの一角に置いてあったセール品ですが、なぜかその当時興味の無かったモスグリーンの色味にも何故か惹かれ、背もたれに重心を捧げ体育座りをするとホッとするフォルムにも惹かれて購入したのです。恥ずかしながらデザイナー名が分からないのですが…ブランド名は分からないけど、ただ何故か作り手の温かみを感じた、何だか好き、というだけで購入したお気に入りの一人掛けソファなのです。
いまでも何処の国の物なのか分からないまま10年が経ちましたが、座って、バッグを置いて、とわたしに寄り添ってくれているソファです。

そろそろ、何処からやってきてどんな方が作っていたのかを調べて、20年、30年と暮らしていけたらと思っています。

 

3ヶ月に渡って細々と書いていた雑貨12選、読んで頂いて本当にありがとうございました。雑貨というのは不思議な物で、辞書でみると「日常生活に必要なこまごまとした品物」と出てくるように、生活に必要だけれどもその生活がより鮮やかに、そしてより楽しくしてくれるのが雑貨だと思います。

他人から見たら無駄遣いと言われるかもしれませんが、自分の支出レベルに沿った無駄遣いほど楽しい物はないと思います。来月あのお皿を買いたいから今月節約しよう、来年憧れの鍋を買いたいからそれに合うように台所を素敵に保とうなど、きれいな無駄遣いは心を楽しくしてくれていると感じます。

 

雑貨屋さんで販売や仕入れをしていた時は『品物』ではなく『商品』、『作り手』ではなく『ブランド』として見ていたような気がします。お値段がお手頃だろうが高額だろうが発注して届いた商品、検品、値付け、陳列と機械的に『商品』として扱わなければ仕事にならなかったからです。もっとひとつひとつの品を観察し、歴史やコンセプトを調べ、お客様に伝えていればと反省もしています。

そしてお世話になっている会社がお勧めする作家だから、と品物をじっくり自分で調べもしないで頂いた資料だけで分かった気になり『ブランド』のフィルターを自らかけてしまっていた事も反省しています。『ブランド』はもちろん大切ですが、何より『作り手』の想いやどういった経緯で私たちの所に届くのか、などもっと調べることはたくさんあると雑貨販売から退いてから思っていたのです。

その後する事になった飲食の仕事でも、続けているイラストレーターとしてのお仕事でも、どんな仕事でも人が人を知らないと見えないことが沢山あるという事を強く感じました。色んなひとつひとつに意味がありそれを知る、知らないでは全然違うという事を雑貨販売で学んだ気がします。


雑貨一つをとっても、まずは『何故私はこれが好きなんだろう』から『どうやって出来ているんだろう』『どこで作られているんだろう』『どういった会社なんだろう』『どういった歴史があるんだろう』と、自分が好きと感じる物のルーツや何故を知ることが生活をより楽しく鮮やかにしてくれるのだと感じます。

 

今回の連載で、何か一つでも気になる物の発見や再発見があれば嬉しく思います。


次回はフリーペーパー「ルッコラ」の連動企画の『自分へのご褒美』というお話を単発でをお伝えしていきたいと思っています。

 

では、また日曜日に。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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