大人も泣こう、邦画5選

岩上 喜実

泣くとデトックスになってスッキリする、と言われ泣き活(泣く活動)をしている方も多いと聞きます。その位毎日働いて、笑いたくないところも笑って、泣きたいところで泣けない大人には泣いてもおかしくない映画を観て泣くのは明日からも頑張ろう!と思える大切な行為なのかもしれませんよね。

私自身は全然知らないチームの試合でも5分だけドキュメンタリーを観ただけで泣いてしまいますし、駅伝で転んだ選手を観ても泣いてしまいます。犬を飼っているので犬の映画や子どもが頑張っているのも泣いてしまいます。そう、面倒くさい女だとは分かっていても我慢せず主人と一緒の時や一人の時は泣いても良い場所であれば、顔は浮腫んで仕舞いますがとことん泣いて、気持ちスッキリして笑顔で仕事が頑張れたり生活が出来たりします。泣く行為は、時と場合を考えたら悪いことではないので男性もどんどん泣きたいときは泣いて欲しいな、と思ってしまいます。

今回は泣きたいときに観る邦画5選です。

「世界から猫が消えたなら」(2016)主演:佐藤健、宮崎あおい

何でも話せる友達は一人いればいいし、両親にはできれば長生きして笑っていて欲しいし、好きな人とは一緒にいたい。そんな当たり前の幸せが、自分と同じ容姿の悪魔から余命わずかと宣告されその小さな幸せを守りたくて世の中からひとつ何かを消すことで、引き替えに1日の命をくれるという非現実的なファンタジー要素の大きいこの作品で泣きたくなるほど輝いて見えるのです。

1日ひとつずつ消していく中で、友人の笑顔は無くなり、好きな人との近かった距離は無かった物のように遠くなる主人公は自分が居なくなって困る人はいるのか?という悲しい疑問にたどり着きます。そうなった時自分が生きたいという願いより、周りのみんなが笑顔になる道を選ぶのですが、それが果たして正解だったのか間違いだったのかは誰にも分からないのですが、確実に残っているのは人が人を心から思う時はかけがえのない優しさに溢れているという事だと感じた映画でした。泣ける、泣けると言われていた映画でしたが、思いの外家で号泣してしまい自分がもし死ぬ日が分かる能力があれば、悲しいけれど大切な人たちに感謝の言葉が伝えられてそれはそれで素敵だな、と思ってしまいました。

八日目の蝉」(2007)主演:井上真央、永作博美 原作:角田光代

既婚男性との不倫の末、子どもを身ごもりますが産みたいという願いが叶うことの無かった主人公が彼と妻との間に産まれた赤ちゃんを衝動的に連れ去り、誘拐犯として追われながら各地を転々とする逃避行が主の作品です。色々な視点から見ると悲しいことが多いのですが、子どもがいない私にとって好きな人の子どもが欲しいと思う気持ちは少なからず共感してしまい、逃げている主人公が捕まりそうになると主人公を応援してしまう自分がいました。

女性には母性という本能がありますが、その放出する量というのは人それぞれ違っていて全く無に近い人もいれば溢れるほどの量を持っている人がいます。それを痛いほどに突くストーリーで、母と子(実の子でなくても)の間には、父親が決して立ち入ることの出来ない空気という物があるんだなと感じました。

主人公の永作博美さんの必死に歯を食いしばって子どもを守りたいという演技が捕まってしまう場面で泣く感情が崩壊してしまう、そんな映画です。

パコと魔法の絵本」(2008)主演:役所広司

嫌われ松子の一生」の監督が描いたファンタジーは、予告やジャケットを見ても泣ける映画だとは誰も思わないはずです。少し変わった人達が集まる病院で出会ったワガママなおじいさんは、1日しか記憶が持たない少女のために何か記憶に残るようにと読んでいた絵本を全員で演じるというストーリーで、色彩も豊かでCGもふんだんに使われ登場人物も濃いメンバーばかりで最初は見慣れるまで気持ちが入りづらいのですが、最後ではいつのまにか涙していました。

人は見返りを求めて何か行動をする事に慣れてしまっていますが、あの人に笑っていてほしい、あの人が元気でいてくれさえすればいい、と思える気持ちが人生に一度だけでもあったのなら、きっととても豊かな事なんだと思います。それが自分に対して何も得することなんか無くても、きっとそう思える以前の自分とは明らかに違うのだと優しい気持ちになるのです。

「君の膵臓をたべたい」(2017)原作:佐野よる

書店でタイトルを見たとき少しギョッとしてしまいましたがこれがまさか泣ける物語だとは知らず、映画では少し少女漫画風な作りになっていますがそれがとても観やすく、言い方は悪いのですがとても泣きやすい映画で、「世界の中心で愛を叫ぶ」(2004)のように余命幾ばくもない女の子が、気になる男の子に明るく接するという定番の物語の一つです。

最初ギョッとしたタイトルの意味は昔からの言い伝えで自分の病気の同じ人のその部分を食べるとその病気が治る、というものからで死んでからも人の心の中で生き続けたという思いからだと分かりました。

結局は病気ではなく違う理由で無くなってしまう女の子。若い人の病気が絡む話はいかにも泣かすぞ、泣かすぞ、という前振りがあったり演じる方が若いせいなのか入り込めないことが良くあるのですが、男の子の「もう泣いてもいいですか」と言いながら泣く姿は色んな感情が溢れお互いが相手の中にいたい、という感情が伝わり、身体を重ねなくても言葉で愛を伝えなくても、大切な人といる日常が宝物だと思えた爽やかな映画でした。

「手紙」(2006)主演:山田孝之、玉山鉄二、沢尻エリカ 原作:東野圭吾

兄が弟の学費の為に強盗殺人を犯したことで謂われのない差別に人生を狂わされた弟と、加害者家族に対する社会の有様を問う、理数系ミステリーの東野圭吾原作の作品です。世間から厳しい目を向けられた弟にとって刑務所に服役中の無期懲役の判決が下された兄から毎月届く手紙が、段々と疎ましくなり兄の存在を自分から消し去りたいと思う気持ちや自らの夢であるお笑いコンビを結成し、自分一人で勝負できるようにと思ったのも束の間、やはり殺人を犯した兄の存在でその夢さえも奪われてしまう現実と全てを諦めようとする姿が印象的です。

やがて結婚し子どもも出来ますが、その子どもにまで兄の罪で苦しめられてしまう事に耐えられなくなり兄に絶縁の意志を手紙にしたためることにしました。

自分の為に罪を犯してしまった兄に自分の幸せを守る為に絶縁するという手紙を書く、そういった事で本当に家族は絶縁することなんて出来るはずもなくただ気持ちの区切りをつけただけなのですが、加害者家族も被害者であることと、被害者遺族や世間はそれを許さないこと、それが当たり前になっているのがとても悲しいストーリーです。

ただ、最後のシーンで罪を償う事は報われないのですが、少しだけ兄にも弟にも明日に向かって一歩を踏み出せそうな描写があり、それに大泣きしてしまった私です。

大人も子どもと同じように泣いてもいいんだ、と映画を観ているとそれが許される感覚になります。それも映画の素晴らしさの一つなのかな、としみじみ思うのでした。

泣きたくなったら、是非観てみて下さいね。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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