トホホで魅力的な男性の邦画、5選

岩上 喜実

可愛い女の子も好きですが、味のある男性は歳が若かろうが重ねようがそれは関係なくとてもお茶目で面白い存在だと思っています。周りの男性達は仕事である程度の地位になっていても素敵な異性の視線を気にしたり、食べ物の好き嫌いが改善しなかったり、すぐにばれるような嘘さえも魅力的に映る男性も多く、そんな雰囲気を持つ俳優さんが出ている映画はストーリーや監督に興味が無くても観てしまうことが多いです。

ただ、女性がキュンとするような格好いい男性ではなく少し情けないような、完璧ではない男性の方がつい目で追ってしまい気になって見続けてしまいます。そんなトホホで可愛い魅力溢れる男性が出ている邦画、5選です。

「永い言い訳」(2016)主演:本木雅弘 監督:西川美和

人気小説家の男性は妻を事故で失ったとき、浮気相手と一緒にいたが意に反して良き夫を演じなくてはならず、同じ事故の遺族である家族の子ども達の面倒を見るうちに居なくなって分かる妻への気持ちや、もう聞くことの出来ない妻の気持ちを知ることになり哀しい言い訳を続ける事になる、というストーリーです。

まずはこの本木雅弘さんは言い訳の多い可愛い大人の男性の役がとても似合うと思っていて、「おくりびと」(2008)のような柔らかい感情の男性役もいいのですがドラマ「水曜日の情事」(2001)のように飄々と女性のためなら優しいウソをつく粋な男性役がたまらなく可愛らしいのです。

映画自体は、人は配偶者が亡くなった後もう面と向かっては話せない孤独や、夫婦仲が冷え切っていても悲しまないといけない世間体や、何故悲しむことが出来ないのかという葛藤など男性の嫌なところを描くのが上手い西川監督の腕が光り、本木雅弘さんの魅力にあふれる作品です。

「ぼくのおじさん」(2016)主演:松田龍平

児童文学が原作の小学生が同居しているだらしがないおじさんのトホホな日常と、様々な大人や子どもとの掛け合いがノンビリ楽しいこの映画は、デビュー時は美少年で各方面に衝撃を与えた松田優作さんの息子の松田龍平さんは、歳や様々な役を重ねて何とも素敵な可愛い困ったおじさんを演じる事がこんなにも似合うなんて思いもよりませんでした。ですが黙っていれば端正な顔立ちに、何を考えているか分からない無関心な視線、猫背でスポーツが苦手、という松田龍平さんの魅力にあふれた作品です。

映画そのものは昭和を感じるリアクションや間の取り方、寅さんのような展開を思わせる流れなど、対した山場はありませんが何も考えずにボーッと観ていられる安心安全な映画なのです。そして何よりおじさんと一緒に行動している男の子ユキオくんがこのトホホおじさんのダメさ加減を可愛いファンタジーに仕立ててくれている陰の主役だと思います。後半はそのゆきおくんとハワイに行くのですが、この映画を観てハワイに行きたくなる人は多いだろうな、と思う不思議な不思議なお話です。

「パーマネント野ばら」(2010)主演:菅野美穂、江口洋介

西原理恵子の人気コミックを映画化したこの作品は、小さな港町に出戻った主人公の母が経営する美容室に集まる女たちの悲喜こもごもの恋愛模様を実力派の役者でストーリーが進んでいきます。友人の小池栄子さんの本当にいそうな崩れた港町のキャバクラ嬢や、おとなしい外見でDV男とばかり付き合っている池脇千鶴さん、町中の女性にパーマネントをあてる母役の夏木マリさんやその他の魅力的なおばさま達の面白ストーリーかと思いきや、進むにつれ主人公を取り巻く人達の深い優しさに溢れた映画なのが分かります。その中で主人公の恋人を演じる江口洋介さんはかつてドラマで熱血を演じた〝あんちゃん〟や真面目な医師といった面影は無く、ちょっと髪はボサボサだけど不潔感はないやんちゃだけど優しい眼差しで好きな人を見る素敵な大人の男性を演じています。大多数の女性が惹かれるような魅力はないかもしれませんが「怒ってる?」と尋ねて「怒ってるよ」と笑ってくれる場面や、大人なのに夜道で可愛いやんちゃをしてみたり、白衣でビーサンを履いてだらしなく歩いたり、寛容だけど少年っぽさが残る魅力的な男性が胸に残る作品です。

「太陽を盗んだ男」(1979)主演:沢田研二

ここで少し古い作品が出てきましたが、私の産まれた年にこんなアバンギャルドで最高のトホホな男性を色気溢れる若かりし日の沢田研二さんが演じていて一気に引き込まれたのを覚えています。内容もかなりぶっ飛んでいて中学の孤独な物理教師の主人公は、原子力発電所から強奪したプルトニウムで原爆を一人で作り始めます。そしてその原爆をエサに政府に要求したことは「プロ野球のTV中継を最後まで流す」ことと「ローリングストーンズの日本公演」と5億円の要求でした。

ですがこの主人公は原爆をただ作りたかっただけであって、最初は特に要求も浮かばず無理矢理絞り出したくらいで動機のない原爆事件なのです。現代だったら上映できないほどの危険なワードが隠されているのですが、時代を超えてこの映画と主人公の男性は格好いいトホホ感を醸し出しています。

全ての人には分かりにくい作品かもしれませんが、私の中では非常に心に残っている作品でこの映画が好きな人とは話が合う気がしてしまうのです。

「さよなら歌舞伎町」(2015)主演:染谷将太

新宿歌舞伎町のラブホテルの店長をしている主人公は、同居中の彼女にも一流ホテル勤めと嘘をつきながら「俺がいる場所はここじゃない」と思いながら仕事をこなす毎日を過ごしています。そのホテルにはミュージシャンを目指す彼女が音楽プロデューサーと部屋に入るところを見てしまったり、AV女優をしていた妹の撮影所になったり、家出少女とその彼女を陥れようとする風俗スカウトマンがいたり、韓国人デリヘル嬢との可愛い友情があったり、お掃除スタッフの意味深なプライベートがあったりと小さいラブホテルの中で盛りだくさんな群像劇が描かれています。

その中で安心して観られる要因は主演の染谷将太さんの安定した演技でどの映画でもその役柄を違和感なくやってのけている印象があり、この作品でも彼女との倦怠期の空気感や仕事に納得いってないけれど仕事をする流れなど観ていて引っかかることが何もなくストーリーに集中できるのが染谷さんの魅力の一つでもあるのかなと思っています。歩き方とかタバコの吸い方や、言いたいことを一瞬ぐっとこらえる表情や、観ていて飽きない俳優さんの一人でとても魅力的だと感じています。

色んな邦画を観ていると、なぜこの役にこの女優さんや俳優さんを起用したのだろう?と感じる事がありますが、いざ観てみるとそんな事が気にならないくらいガッチリとはまっている映画を見つけた時は不意なご褒美をもらったように嬉しくなってしまいます。もしそれが感じる映画を見つけるきっかけになったらとても嬉しいです。次回は最終回ですので、良かったら覗いてみて下さいね。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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