⑫40歳からのわたしへ

岩上 喜実

20歳で成人式をするように私にとって40歳を迎えることは他の年齢より一つの節目としてどこか特別なものを感じていました。20代から30代になった時は精神的にも物理的にも特に大きく変わったと感じる事はとても少なく、学生時代や20代の頃は周りから浮いた存在にならないように足並みを揃えたり、周りから嫌悪感を抱かれないようにと意識しすぎていたような気がします。ですがその時期に周りを意識しすぎていたからこそ色んな事の入り口が広がり、30代の10年をかけて私という存在がより形がくっきりとしてきたような気がします。

同世代の女性に対し羨ましいという事を恥ずかしいと思わず、羨ましい、さて私も頑張ってみるかという清々しい感情に変わっていくという事、色んな立ち位置の女性に対しどう気遣いどう振る舞えるかという事、生きてきて色んな事で悩んだことをこれからの自分の武器にするという事、相手のことを想っての嘘なら誰かに嘘をつかれてもいい覚悟を持って素敵な嘘をつく時もあるという事、子どもを持たなくても母親になっても、全てにおいて裏も表もありどちらも当然のことだという事、小さな地味な事こそ大切と思いながら仕事をしそれを伝えるという事、大人の女性が使う「好き」という言葉の用法用量を守るという事、自分という存在を確かな存在にしてくれる文章を書く癖をつけるという事、プライドはあった方がいいけれどできれば身軽に、気軽に、笑顔でいるという事、損得関係なく自分らしくいられる友人がいるという財産を大切にするという事、自分の身体は自分が一番労り慈しんであげるという事。

40歳目前にして思う事はまとめてみるとこんなにもシンプルで、想像以上に歳を重ねるのが楽しみだという事だったのです。周りと足並みを揃えて少しでもタイミングがずれてしまうと悪目立ちする学生時代より、周りより仕事を頑張りすぎても頑張らなさすぎても陰口を言われてしまう時より、結婚したとか子どもが出来たとか、結婚できないとか子どもが出来ないとか本音を言ってはいけない女のレースのようなものがある敏感な世代の時よりやっと個人としてスタートに立てたような、長い準備運動と助走が終わって少しレースが楽しみなような気持ちで一杯です。

ですがそのレースは短距離なのか、障害物競走なのか、もしかしてトライアスロンかもしれない、それは誰にも分かりませんがどのレースにも備える準備が10代20代30代だとしたら、いっぱい悩み、傷つき、考え、語り合い、記し、それが40代以降に繋がるのだと今なら分かる気がします。

そう考えたら10代にあった、死にたいと思った程の辛かった学校でのいじめも20代で消えてしまいたくなる程の失恋も、30代で自分の存在が不安と不満で固められた悲しい程の仕事の失敗も、全て今の自分の笑顔に繋がっていると思います。

今は19歳の時20歳になるという瞬間、そして29歳から30歳になった瞬間より、40代になる自分に出会うのがとても楽しみなのはそういった前向きな考えにさせてくれる側に居る主人や家族、友人や仕事仲間のおかげだと思っています。

いつも笑って過ごしていられるよう、これからも周りに感謝して楽しく生きられたらそれだけで幸せだと思っています。そして50歳になる前にもこうやって文章をまとめることが出来るように日々色んな事を吸収する女性でありたいなと願っています。

12回の長い期間、目を通して頂いてとても嬉しいです。年上の方々、もっと楽しい姿を私に見せて明るい目標にさせて下さいね。年下の方々、もっと年を重ねるのが面白いと感じるようにこれまで以上に笑顔で過ごしますね。そして同じ年の方々、一緒に同じ時代をもっと平和に楽しんで過ごしましょうね。

読んで頂いて本当にありがとうございました。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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