人として当たり前の姿を覗く

岩上 喜実

独特な原作セレクトの多いテレビ東京のドラマは、言い方は悪いのですが何かをしながら流し観するにはとても適していると感じるドラマが多く、それでいて何となく次も観たくなってしまう軽い中毒性の高い内容のものが多いのです。

お腹が空いたり、男女のありがちな言い合いをのぞき見したり、夢を描いている男性の奮闘をぼんやりと見ていると自分がなんだか俗物になったような気がして毎日『普通』の生活をしている私にとっては、微弱の電流を流し生活のほんの少しの刺激にして純粋に愉しめるドラマが多い気がするのです。

「孤独のグルメ」

2012年から始まり今ではシーズン7まで続き海外ドラマのような長さを誇る漫画を原作にしたドラマですが、内容と言えば個人で輸入雑貨商を営んでいる男が仕事の合間に立ち寄った様々なお店でただ食事を楽しむという、それだけの内容が何とも面白くて思わずこのお店に行ってみたい!という気持ちになるので、ただの連続ドラマではなく情報番組を観ているような気分になります。

夜中に見るのは本当に危険なので、録画して朝観るようにしていたドラマでした。話題になって以降、こういった『食べる』ドラマが増えたような気がしますがやっぱりこのドラマの雰囲気や食べっぷりが好きだと感じたのです。

「東京センチメンタル」

まるで平成の洒落た寅さんを観ているような、恋多き和菓子職人の55歳の男性が今の東京の様々な場所で様々な美女に淡い恋心を抱きデートをするというこの連続ドラマは、他局ですが男同士の恋愛を今までにない可愛らしさで演じた吉田鋼太郎さんが魅力的で憎めない『おじさま』で魅せてくれているドラマでいて東京をゆっくり歩いてみたいと思わせてくれるドラマでもあります。

せわしなく楽しいものに溢れているイメージの東京が、何だか愛らしく見えるドラマのような気がします。

「モテキ」

映画化もされているので有名な連続ドラマですが、今まで全くモテなかった男性に人生のモテ期が一気に訪れるとこんなにも面倒くさくてイライラするものなのか!と毎回フラストレーションを溜ながら観ていました。とにかく経験値が低すぎてそれでいて変な知識だけは豊富なまま生きてきた男性の要領の悪さ、気遣いの方向違い、言葉のチョイスのイマイチさが最後の方では少し癖になってしまうのですが、主演の方が森山未來さんでなかったら脱落していたかもしれない連続ドラマでした。出てくる女性達は映画版合わせて女性から見てもドキドキするほど可愛い方が多くこんな子達になら騙されてもいいかも、と思ってしまうのでした。

そして男性はやっぱり可愛い女性が好きなこととダメなところが可愛いものなんだな、と思ったのでした。

「アオイホノオ」

1980年代初頭の漫画家になりたい男性の熱い情熱と間違ったやる気とやり方をコミカルに描いているのですが、最初漫画原作を読んでいたので「これをドラマ化するんだ…」と少し驚いた覚えがあります。

大体そういう時は結局漫画原作の方が良くて、ドラマの仕上がりにガッカリすることが多いのですがこのドラマは主演の柳楽優弥さんの漫画っぽい表情や動き、そしてヒロインの山本美月さんの漫画のヒロインらしい可愛らしさにすんなりと世界に入っていくことが出来ました。大阪の芸術大学に入学した主人公はのちに伝説的アニメ−ジョンを作る天才達を目の当たりにして自分は天才では無いことに気付き始めるのですが、それを払拭させるために奮闘する所がとても悲しくそして可愛らしいと思ってしまうのです。

夢を描いたり、男女で恋のやりとりをしたり、ただ食べたり。そんな人として当たり前の姿をただ覗いているだけでクスッとしながら「明日も仕事頑張ろうかな」と自然に思えてくる事に気付いてしまうのが面白いこの枠の連続ドラマなのです。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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