⑥たまにはさようなら

岩上 喜実

人の事を羨ましく思う感情が、人の感情としての分類で一番苦手なものかもしれないと思い始めたのは30歳を超えた辺りからだったような覚えがあります。

それは友人であったり、仕事のライバルであったり、もしかしたら親族だったりするかもしれませんが通常の生活ではその対象も限られた範囲で済む事が出来るものの、スマホやパソコンでひとたびSNSを覗けば、羨ましい存在が限り無く自分の幸せを主張してくるのです。どうして心身ともに健やかな時は何も思わなかったのに、心か身体、あるいは両方とどちらかが傾いている時は暗雲のように健やかな心身に翳りをみせ、悲しい程に斜めの見方をしてしまいがちになり人の生活を羨ましく思ってしまうのです。

それが仕事の合間に少し思うだけならまだしも、切り替えが中々つかずズルズルと引きずられるように暗雲が心を埋め尽くすほど黒い自分になっていく事になってしまうのです。

そこで一度スマホの状態が悪く友人達の投稿にいいね、を押しても画面が反応しなくなりふと何となく見るのを辞めてみようと思い始め何となくSNS自体から興味を反らすようにしてみたのです。それが、気持ちの切り替えスイッチ6つ目は『SNSから少しだけ離れる』ということ。

 

きっかけはスマホの不具合から操作が面倒になり、日常のルーティンだった友人達の投稿を見るという行為から離れてみるというシンプルなものですが、驚くことにそれが凄く単純に他の知識を入れる時間が増えていったのです。その眺めていた時間を睡眠時間に換えるといつもより深く眠れることが出来何となく目覚めが良い感じがする。ある時はその時間を読みたかった小説や映画にあて脳が小旅行に出た気持ちになる事。そしてある時は普段面倒でしなかった家事も少しずつするようになる事。

その何でもないことですが小さな満足感や爽快感が生まれ、心の中の一斉清掃が出来たような気になってくるのです。

 

そうなってくると投稿を見ていた間の私の心はどうなっていたのかと考えると、こんなに連休がとれていいな、みんなと楽しそうでいいな、素敵な家でいいな、可愛くて良いな、お金があっていいな、と普段はそこまで出てこない『いいな』という羨ましい感情が爆発してしまうのです。それはただの羨ましい感情だけではなく、自分は何をやっているのだろうという卑下する感情が生まれてしまったり、ふつふつと沸き上がるどこにぶつけて良いのか分からない嫉妬の感情が生まれてくるスタートになってきてしまうのです。この人とこの人が飲みに行くほど仲が良かったんだ、こういうイラストのイベントがあるのに自分には声が掛からなかった、などそんな風に考えてしまう自分が気持ち悪くなってしまい、約ひとつきほど仕事とこのブログのみを観覧するようにしてみたのです。

 

その見ていた時間の代わりにあてていた僅かながらの増えた睡眠時間で頭の中の余力が増え、読む時間が増えた本の時間は新しく短歌を読み始めその中から素敵な言葉の数々に出会い、家事嫌いだった私が少しだけ洗濯や掃除をこまめにするようになったのです。

そうすると自分の中のエンジンがかかりだし、何となく平気になった様な気がしてSNSを覗くと可愛い人にときめき、美味しそうなものには食べたくなり、羨ましさが心地良くなってくる感情に出会えたのです。心の中に埋まっていた暗雲はスッといなくなっていき何だか気持ちの切り替えがついたような気持ちになるのです。

 

今の時代のSNSとの付き合い方や距離感はとても難しいような気がしています。それをうまく付き合ったり、距離を置いたりして自分の世界を守るのも大切なのでは、と思います。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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