⑦少しだけ遠い場所へ

岩上 喜実

はたして自分探しというものをしてみて自分を探すことが出来た人はどれだけいるのだろうと思い、私自身の思春期や年頃の時の事を思い返してみると、自分探しをする前に人生でやりたい事が明確になっていたので、その夢に少しでも近づけるように必死日々を過ごしていた為自分を探す必要がなかったように思えます。

それが幸せなことなのか不幸せなことなのか分かりませんが、ふと自分の事を探したくなるほど悲しいことや悔しいことがあった時この自分探しをしていたら何かが変わっていたのかな、と思う事があるのです。

大人になった私はその思春期や年頃に出来なかった自分探しをする為、仕事と家庭を休憩し日帰りでフラリと大きな目的もなく県外へ小旅行をする事があるのです。それが、気持ちの切り替えスイッチ7つめです。

 

自分の運転では移動だけで少し疲れてしまうので、高速バスや電車、新幹線を使って片道2~3時間の範囲で出かけるようにすると、山陰からだと大阪や神戸、広島などに朝一番で出かけ夜に家に着くように帰るようにして、約1日の小旅行に出るのです。

その楽しみ方は移動中に読む本は何を読もうか、着いた先で何を食べようか、何か気になるものを探して買いに行こうか、主人へのお土産は何にしようか、何か美術展や舞台を見に行こうか、それを考えている間から小旅行が始まり、それだけで少しだけ日々繰り返される仕事を頑張れそうな気がしてくるのです。

好きな雑貨を見るのも、欲しかった器を買うのも、気になっていたご飯屋さんに行くのも、いつもは周りの様子や仕事の時間を伺いながら行動していたのが自分の欲望のままに動けるというのは、心が解放されカチンコチンだった頭の中が途端にふにゃふにゃと柔らかくなって色んな事が吸収されるようになってくるのが分かるのです。

 

いつもとは違う場所で、誰も私を知らなくて、だけど帰る場所がある。という贅沢な自分探しに似た小旅行はとても自分を満たしてくれるような気がして、家に戻る頃には明日からもお仕事を頑張ろう、と思えてくるのです。

普段の生活で何かが気に入らない訳でもなく、何かに腹が立っている訳でもなく、ましてや何かが悲しい訳でもなく、その事がただ単に何となくしんどくなった時「今度のお休みどこかに行ってみようかな」と思うのです。

その出かけた先に探していた物や場所や自分は見つからなくても、その気分転換が出来る事を許されている環境にいる自分の周りの人達に感謝してみると「今の自分がいちばん幸せ」だという事を思い出させてくれるのです。

幸せ自慢でも、自由自慢でもなく、ただただ自分の置かれている場所の価値に気付くことが出来る小旅行は、意味が違うかもしれませんが自分探しの旅に当てはまるのだと感じます。そして私のことを笑顔にしてくれる人は、主人を始め友人や一緒に働くスタッフなど沢山居てくれる事を感じる度、自分自身をもっと大切にしていこうと思う事が、自分へのお土産なのだと思います。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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