⑧人を好きな自分でいたいから

岩上 喜実

色んな人と関わっていると自分一人で過ごしていたら味わえない喜びや嬉しさがこみ上げてくる瞬間があるものですが、その反対に何故あんなに人を不快にさせる人がいるのだろう、と不可解な行動や言葉選びをする人に出会うことがあります。

それは単純に空気を読むことや、人の表情を伺うこと、そして選ぶ言葉のチョイスが主な原因だと思っているので、せめて自分は分かる範囲でなるべく人の心に傷をつけないように生きていこう、と様々な事に細心の注意を払って仕事をし、友人知人と交流をしてきました。

 

その中で見えてきたのは仕事ではある程度の緊張感もあり、お互い年齢を重ねてきた大人同士なのでさほど気になることも少ないのですが、仕事を離れた〝自分〟そのものでぶつかっていきすぎると思いも寄らぬ感情の事故に遭うことがあるのです。

そのせいなのか仕事以外の約束事はメンバーによってはあり得ないほど緊張をしてしまっていたり、約束そのものは楽しみなのに直前になるとふと行くこと自体憂鬱になってしまうこともあったのです。

折角のお休みをそんな憂鬱なものにしたくない気持ちと、大切な数少ない友人知人のアラを探してしまっていたりちょっとした事に不快感を感じてしまう自分に嫌気がさし、こんな事を考えるくらいなら人に全く逢わないように過ごせる日を、作為的に作ってみようと思ったのが気持ちの切り替えスイッチ8つめの〝人と逢わない〟です。

 

誤解を招くことがあるかもしれませんが、私は基本人と関わるのがとても好きな側だと自分でも思うことがある位、関わること自体嫌になったことはありませんでした。

人見知りをしたこともなければ人前で話すことに緊張したこともなく、学生時代のいじめに合っていた時も、「人っていじわるをする時こんな嫌な顔をしているものなんだ」と人間観察を怠らなかったですし、イラストレーターとして仕事を始め今まで出会うことの無かった会社や出版社の方、そしてクライアントの方とお話をしたり仕事を進めていくと最後の方では最初の印象とまるで変わってしまう方も多くいるもので「自分のスケジュール通りにいかないと途端に怒り出す人っているんだな」と感じたり、経営しているカフェで様々なスタッフと知り合い、もちろん良い出会いの方が多いのですが陰口悪口不平不満をこそこそと言いつつ上司である私の前ではそんな事は言っていませんよ、という顔をして普通に働いていた方も多く、私自身も「陰で言っているの、知っていますから」と思いながら知っていませんよ、という顔で接している事もありました。

ですがそれは少なからず多からず私自身にも問題があることなので、その状況自体が両成敗である事に気付いたのです。

学生時代のいじめも私が転校先で積極的に交わろうと努力をしなかったことも原因だと思いますし、仕事での感情の変化はそもそも私がきちんと最初にその方とじっくりお話しをして、分からない事をそのままにしながら進めてしまっていたことが原因だとも思いますし、スタッフの不平不満もコミュニケーションが不足し話さなくても分かるだろう、といった時間の手間を省いてしまったことが原因だったと今ならすんなりと分かる事ばかりなのです。

嫌な思いや悩んだ多くの時間は、その時の自分より少しばかりですが成長をしており今の私を作った欠片になっているのが良く分かっています。自分がされて嫌な事はしない事を基本に、逆にしてもらって嬉しい事を深くイメージすることでお節介にならないギリギリのところで行動できるフットワークを持っている人でありたいと思っているのです。

不思議なものですが、人が好きなくせに人と距離を置く時間を作ることでまた人を好きになれる、そんな矛盾した事が気持ちの切り替えになっているのです。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
Non café
鳥取県米子市米原6丁目1-14
0859-21-8700
Facebook:https://www.facebook.com/Noncafe/?fref=ts
イラストと教室問い合わせ:nonillustration@gmail.com