⑨みんなが思い出す自分の顔

岩上 喜実

気持ちの切り替え方が事細かに自分で分かっていたら、仕事や家のことで疲れた時にスケジュールを組むように旅行や遊びの予定を組んでみたり、誰にも会わなくてもいいような状況を作ることが出来るのですが、その時の自分の状況によってはチョイスした気分転換のやり方が違うだけで全てが逆効果になり、心身共に疲れ果ててしまうことがたまにあるのです。

好きな物を購入したり、家の本棚を整理したり、身体のメンテナンスに時間をかけてみたり、何もしなかったり、どれがどの疲れた自分に合うのかまで分かると気持ちの切り替え方のプロになるのになぁと思っていますが、どれも当てはまらない時は毎日付き合わなければならない、誰でもない『自分』に向き合う事にしています。

それが気持ちの切り替え方の9つめです。

 

自分探しというものは遙か遠くから思いもよらなかったものに出会い今までの考え方がくるりと180度変わってしまうようなものですが、自分探しをするほど自分の事が訳が分からない事では無くてただただ自分という人間の分析を客観的に、かつ細部まで考えてみる時間が必要だと思っているのです。

そういえば若い時にはバイトの面接や知り合った人に対し、自分はどういった人間で、どういった利益をあなたにもたらすことの出来る人間なのです、という事をアピールしていき自分の存在価値を自分で作り上げていくような人間でした。

いかに他の人とは違うのか、それが個性と言えるのかは今思うと頭を捻ってしまうのですがそれが私にとっての自分の価値だったのです。

自分の事に真剣に向き合っているとまるで『自分』というお店を作っているような気分になってしまうのは、歳月をかけ様々な方と出会いその都度様々な気持ちになり、それを自分なりに消化してきたことで無骨な形かもしれませんが出来上がってきた『自分』。

その過程が、どこかカフェをオープンした頃に似ているのです。手探りでがむしゃらに理想の形になるように沢山失敗して、悩んで、泣いて、考えて、進んで、見つけて、挑戦して、笑って、分かち合って、それを何年も繰り返してオープンした頃よりずっと愛着が持てるカフェになっているのを感じると悩みもなくスルスルと年を重ねていた頃よりも、ひとつひとつの心の傷に愛着が持てているような幸せを感じる事ができるのです。

 

心が削られていくような出来事が重なった時ほど、仕事場での自分でも、家で家族の中の役割をこなしている自分でも、SNSの中の自分でも、そのどこの立ち位置にも属さないでいると考えた時の自分ははたしてどんな顔をしているのだろうとイメージするのです。

よそゆきで格好付けている自分でも、普段着過ぎてクタクタになったスウェットのような自分でも、どんな自分でもそれでいいやと思えたらとても気持ちが良いような気がするのです。

顔の見えない誰かのうわさ話で傷つけられても、自分で治癒するように立ち直る力は自分の事をよく分析できている人ほど持っているような気がします。それはよそゆきでも普段着でも、自分の好きなところも嫌いなところも、誇れるところも直したいところも、全て分かってそれでも日々を一歩一歩進んでいる人になりたくて自分と向き合う時間を作るようにしているような気がします。

明日という未来に笑っている自分でありたいから、自分の事をよく知っておきたいのです。自分は何に向かっているのか、何を喜びと感じているのか、少し振り返り固め直す時間を必要としているのかもしれません。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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