色を「つくる」

岩上 喜実

イラストを描くときに必要な完成予想図(ラフ)が仕上がり、下書きが出来たら着色をしていきます。この着色という行程で仕上がりが全く違ってしまうこともあるので、どこにどの色をのせるかという確認を慣れないうちは下書きに実際色を着けて担当の編集者さんに確認をとってから色を着けていました。

何回か一緒にお仕事をさせてもらっていたり自分の作品を発表し続けていると、私自身のセレクトする色の好みや得意な色の組み合わせ、そして仕上げのやり方の癖が分かるのか着色行程は今現在全部お任せという事が多くなりました。

 

私は原稿をアナログな方法で仕上げているのですが、幸運なことにそのアナログさを気に入って下さって仕事の依頼はほぼ100%手書き、パソコンを使うのはスキャンしてメールで確認してもらうだけという事になっており、その際色を着けるのはペンだったり、色鉛筆だったり、絵の具だったり、インクだったり、文房具屋さんで選び腕をめくり服を汚して描き続けています。

その中で色を塗ることが多いペンは、自分の中だけのルールが有りそのルールを守り続けていたおかげなのか、どんなに納期が短くてもクオリティは変わらず納品することが出来るようになりました。そのルールとは、①絶対に気に入らない組み合わせはしないこと②薄い色から塗っていくこと③下品にはみ出さないこと④目に入る時期の季節を考えることの4つです。

まず①はどんなに美しかったり可愛い色でも、組み合わせ次第ではどことなく不安になったり惹かれないイラストに仕上がることも多く、それが企業イラストだとしたら企業イメージも悪くなる恐れがあるのです。一番最初に仕上がりを見ている自分が、どこか不安になったり引っかかるような色合いなら、いちから組み合わせを考えていった方がいいのです。その悩む時間の短縮のために、普段から色の持つ意味や組み合わせに生じる感情など客観的に見ておいて感覚の整理をしておくと迷わず色を選ぶことが出来てくるような気がします。難しい場合は、雑誌のコーディネート色の組み合わせやインテリア雑誌やお店の組み合わせを見てみると〝何故か惹かれる〟〝何故か不安な気持ちになる〟という〝何故か〟〝何か〟が掴めてくるのだと思います。その中で気に入る組み合わせを常に自分の中でストックしておくと、時間と戦う武器になるのです。

 

そして②は単純に作業の効率化の為、常に薄い色から塗るようにしています。濃い色を先に乗せてしまうと色の感覚フィルターのダイヤルが狂い、使う色が分からなくなるのです。そしてもし薄い色を塗ってみて「もう少し濃い色が良かったかな」と思った時に薄い色から濃い色に変えることは容易くても、逆だと一度修正して…という手間が増えてしまうのです。③は線の無いところに色を乗せるときに、どこまで塗って良いのか分からない場合があるとします。その時にノリだけでお洒落っぽくはみ出した所が冷静になって見返した時にはみ出しすぎて全体のバランスが微妙に悪くなってしまい、誰も分からないかも知れませんがどことなく下品に見えてしまうと全部が下品に見えてくるのです。それを防ぐためにも自由な筆運びも良いのですが、どこかに自分の中での境界線を作りはみ出ないようにバランスの計算をしながら塗ることが完成した後の原稿の満足度が違ってくるのだと思います。自由な所ほど、しっかり計算するのが大切なんですね。

そして④は手に取る方が大体どの季節になるのかを逆算しその季節にピッタリくるように色合いを合わせることがとても大切なのです。例えば春の季節に出る原稿なら、キャラクターの洋服や背景はブラックやブラウンなどのカラーは避け明るく優しい新芽のグリーンや落ち着いたイエロー、大人っぽいピンクを選ぶことが多いですし、夏は見ていて暑くならないようスカーレットや深紅は避けミントグリーンやライトブルー系を選びます。そして秋ならホッとする色合いになるようブラウンやモスグリーンなどを多用し冬には春夏には使用しなかった赤をよく使います。

 

着ている洋服で素材が同じなのに色が違うだけで体感温度が数度も変わってしまう程、人の目というのは敏感なセンサーを持っており、それらを頭に入れながら色を選び着色していくのはとても難しいですが、とてもとても楽しい作業だとも言えるのだと思います。

色をいちから作るのは難しいですが、自分ならではの色の組み合わせを作るのはイラストレーターとしては大切な作業だと思って日々観察しています。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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