空が印象的な邦画、3選

岩上 喜実

空から始まり空で終わる映画は邦画洋画問わず多いものですが、そのストーリー性ひとつで同じ空でも清々しかったり、憎らしかったり、神々しかったりと様々な気持ちにさせてくれます。そして空はいつでも自分の頭の上にいてくれ自分の行いを常に見てくれているような気がするものなので、どこか母なる空のような感覚になるのかもしれないです。

近年観た邦画でそんな大きな存在な空が特徴的だと思った作品を紹介します。

雨上がりの綺麗な空だったり、音で溢れる自然と共にいる空だったり、底辺の生活をする者のみに分かる小さな小さな希望の朝陽が出る空だったり、映画を観ていると自分の今目にしている空はどんな空なんだろう、と考えてしまいます。

 

「恋は雨上がりのように」(2018)主演:大泉洋 小松奈々

ファミリーレストランのバイト先の店長に恋をした女子高校生の、大人になった私たちには甘酸っぱいけれど爽やかな微炭酸飲料のような作品です。女子高校生には怪我をしてしまい好きな短距離走を諦めてしまった過去が、店長には好きな小説を身近な人の成功を羨みながら自分は書くことを諦めきれない過去と現在があり、大人でも高校生でもやりたい事に踏み出す勇気が必要で、そしてその一歩には誰がどう関わってくるのかが面白く可愛らしい映画で、配役も少し間違えたら気持ち悪くなりそうな内容をスッキリ爽やかな気持ちにさせてくれるのです。

私は店長側の年齢に近いので、高校生が未来に向かって悩んでいること自体がキラキラ輝いてることがとてもよく分かります。その当事者である高校生には分からない輝きが見えてきてしまった私は、高校生から見て大人としての輝きがあるのかな、と思わずにはいられないウズウズした気持ちになりました。原作の漫画は完結していて、私の中ではそれもとてもスッキリした終わり方だった上に、このキャスティングは見事な位ピッタリと合致しています。

映像や音楽も雨がキーワードになっているので、恋というものは雨が降るのと同じ感覚なのかもしれないですね。いきなりの雨は防ぎようがないですが、それもまたしょうがいないと受け止めながらも降り止まない雨は無く、そして雨上がりはとても綺麗な青空が覗くことができるのですから。

 

「羊と鋼の森」(2018)主演:山崎賢人

北国の小さな町の若きピアノ調律師の成長を描いた作品です。昔から私はピアノ教室に通うも楽譜が詠めない、指が動かない、先生が怖い、という理由で苦手意識が強く家に来られる調律師の方とも話が出来ないほど遠い存在でした。そんな私ですら素晴らしいピアノの音色を聴くと頭には眩しい陽が降り注ぐ空に森が生まれ、足元には僅かで綺麗な小川と側には小さい草花が芽を出す感覚があり、その優しいざわめきをこの映画で思い出すことが出来たのです。

キャストも皆作品のイメージ通りで、優しく指導してくれる先輩、深く諭してくれる先輩、厳しいけれど見守ってくれている先輩、突っ込みを入れながらもフォローしてくれる先輩、そしてピアノを弾く人達の優しい愛の溢れる表情が心を満たしてくれる、丁寧な優しさで作られた映画でした。主演の山崎賢人さんの迷いながらも何かを吸収したい眼差しや苦悩、そして格好良すぎる先輩の鈴木亮平さんが素敵です。私はああいった真剣な後輩に何か出来ているのか、そして自分自身も視野を広げられているのか、とちょっとささくれた気分の時に観るとささくれに軟膏を塗ってくれるような気持ちになる映画です。

 

「そこのみにて光り輝く」(2014)主演:綾野剛 池脇千鶴 菅田将暉

観る前から暗い、鬱になる、などの評価があったのでこういった作品は夜寝る前に観ると気持ちが落ちてしまうのでなるべく午前中、できれば天気の良い日に観ようと決めて観たのは正解な程、出てくる登場人物は皆何かに不満を持って、それでいて哀しくて今の生活をただ息をしているだけの亡霊のような生き方をしています。唯一羽振りの良さそうな社長も「家族を大事にしているからおかしくなる」と言って裏では女で発散する、負の連鎖がまとわりついたような小さい世界の底でもがく3人のストーリーです。

池脇千鶴さんの妙にリアルな体型にけだるい色気と、そして情愛の深さが二人の男性の駄目な部分を救っているような小さい光を感じるけれど、その光も細いろうそくの頼りない光でゆらゆらと影が出来たり光が差したりを繰り返している悲しさと小さな小さな希望が見えるラストでした。

ボコボコに殴られ腫れた上にぐちゃぐちゃに泣いた顔にオレンジ色の朝陽が差したときの表情は、生きた聖母を見ているような気持ちになる演技でした。

 

色んな空を眺めるように、映画を観ると楽しいかもしれません。

 

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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