完成予想図を「つくる」

岩上 喜実

下準備(下ごしらえ)というのは、本格的に物事を行う前のあらかじめする準備といってどの作業においても土台を作る大切な項目です。例えば分かりやすい料理では野菜をその料理に合った形に切っておいたり、下茹でをしていたり、味をつけておいたりといった行動で〝しておかなくても出来るけどしておいた方がよりスムーズに進むことの出来る〟項目なのです。他にも人間関係の下地作りやプレゼンなどの準備の準備など、しておいた方が自分の想い描く完成図に近くなる事が良ければやった方がいいのだと思うのです。

 

イラストレーターになる前はこの下準備にあたる全体完成図を頭の中だけに想像し、出来上がった完成図と少し違っていてもそれは〝仕事〟ではなかったのであまり気にすることもなかったのですが、いざ仕事となると自分の頭の中は誰にも伝わらないのでそれを紙におこし、完成図に向かってスケジュール通りに描いていかなければ誰かしらに迷惑がかかってしまうのです。その誰かというのは仕事を依頼してくれた方、私のイラストを推してくれた方、そして編集する方、デザインを組んでくれる方、印刷してくれる方、関わる方全てに迷惑がかかってしまうのです。迷惑がかかれば次の依頼はないかもしれません、そして仕事はどんどん無くなってしまうかもしれません。仕事が出来る出来ない関係なく、仕事としてイラストを受ける場合は下準備であるラフ作成の作業を念入りにし、相手とやり取りをしながら何度も確認し描く手の自分と相手の完成予想図がピッタリと寄り添っていない事にはイラストレーターという仕事では無くなってしまうのだと思っています。

 

そのラフを実際に作ってみましょう。

今回は一番分かりやすいラフチェックをして下さる長年の付き合いになってきた「ミサワホーム」さんのペーパーの原稿ラフです。まず最初に今回はどういった季節に、どういった内容をまとめるかというメールが担当の方から頂いてそれを原寸大の用紙にレイアウト、キャラクターや文字の大きさも最終的に納品する大きさで描いてスキャンしメールで送ります。言葉の言い回しやレイアウトの変更などもっと見やすく、キャラクターが生きるようにチェックをされ、赤ペンでチェックされたデータがメールで届きます。それを修正し…というのを繰り返し最終クライアントの企業の担当の方にチェックして貰います。それが問題なければラフの通りに下書きをし、完成予想図であるラフより魅力的になるよう着色をし、チェック、納品、でイラストレーターとしての役割はひとまず終わりになります。

イラストがどう生きるのかは担当の編集さんが細かくチェックして下さり、そして自分でも気付けなかった〝良いところ〟をとても褒めて下さいます。

今まで色々な企業の方にお仕事の声をかけて頂いたり、数社の出版社の編集者さんとやり取りをさせて貰っていますが私以上に私のイラストの良さを理解してくれ、私以上に愛してくれる方がおられると本当にありがたく仕事をさせて貰っているような気がします。どんな仕事でもお互いが仕事をしていく上で同じ方向を向いた完成予想図を頭に入れておかないといけない事だと思っています。

イラストの仕事以外でも仕事場の上司や部下も、夫婦も、同じ方向を向くための完成予想図(ラフ)があるといいのでは、と思ってしまうのです。どんな物事でも、下準備ってとても大切なんですね。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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