女の中の毒を味わう映画のようなドラマ

岩上 喜実

「ポイズンドーターホーリーマザー」(2019)

 

元々原作の湊かなえさんの小説は自分の嫌な部分をそれでもいいよ、と言ってくれるような包まれた感覚とそれ以上の知らなかった感情に気付かせてくれる稀な存在であり、その感覚がとても好きなんです。嫌な気持ちになるミステリー(イヤミス)映像化の中で映画では「告白」が有名ですがドラマだとWOWWOWのシリーズがとても丁寧に作られていて派手すぎず小説そのままが映像になったような視覚的にも内容的にも満足する事が多く、何よりキャスティングがいいです。

映像を作る上で原作以上のものを、という狙いみたいなものが細かいところまで感じられるこの「ポイズンドーターホーリーマザー」は6人の女性の様々な毒を味わう6話のドラマですが、気付けば他の話だったはずの登場人物が自然と入り込んでいるので6話と言うよりはまとめて大きな映画を観ているような気になってきます。

1話目の毒親、こちらを寺島しのぶさんが演じており初見では何て自分本位な子供に依存した母親なんだろうと思いながら2話を見るとそんな事はなくの毒親ではなく毒娘だったのでは、とも思える内容になっています。

3話目の罪深い妄想家の女性は傍観している観点でこうも解釈が変わってくるのかと思えますし、4話目の苦悩と嫉妬の脚本家では自分の夢への稼働力が何になるか分からないという事が分かりますし、5話目の優しい女性は自分はどんな人でも分け隔て無く優しくするということの現実のバランスがいつのまにか狂ってしまいますし、6話目の閉鎖的であり自分の都合解釈が強い引きこもりの女性はこういう自分の中のストーリーが誇大して現実と分からなってしまうと最終的に行動し笑顔になるんだなという怖さを感じます。

と言った多種多様な毒を持った女性達が出てきます。それぞれに共通するのは自分という人間を形成するに多大な影響を及ぼしたであろう〝母親〟という存在が強く、簡単に拭うことも否定も出来ないほど洗脳という名の育児。

女というのはだれでも毒を持っていなければならないし、母になれば聖母という立場でいなくてはいけないのかもしれない、子は鏡で有り続ける事で親で居なければという気持ちになるのかも知れないと思えるドラマです。そして観終わった数日はエンディングで歌われる子守歌のような曲が頭から中々離れず、女性が目的を持つと計り知れない敵を倒す力が生まれるものなんだと感じたのです。

母になった女性にも、かつて娘だった女性にも、夢という名の呪縛に意図して絡んでしまった女性にも、全ての女性の毒の部分を見て欲しいと思える作品です。

 

「坂の途中の家」(2019)

 

こちらも同じドラマシリーズでの原作は様々な映像化をされている角田光代さん、10年以上前の著作はいつも何かに自信が無い女性がひとつ行動した事でゴロゴロと悪い方向に進んでしまう湊かなえさんとは違った意味で嫌な思いをすることが多いのですが、それがまた人は完璧でいなくても大丈夫と言われているみたいで包容力を感じる事が多い作家さんです。映像化で有名なのは「八日目の蝉」(2011)や「紙の月」(2014)といった女性の今までにあまり重要視されていなかった空虚感や絶望感を表現した映像化作品でした。

「坂の途中の家」というこの作品は主婦が自分の子どもに手をかけてしまった事件の裁判員に選ばれたことでの自分の生活での不安を募らせていく、何が子育ての正解なのか何が当たり前なのかと問われ追い込まれていく様が同じ女性として哀しくてたまらなくなり、子を産み育てるという事は古代から変わらない事かも知れませんがそれに伴う近くの男性(配偶者)の想い、世代の違う同じ女性(実母や義母)の想い、世代も子を産み育てている同じ女性のはずが自分とは違う想いなどすれ違うばかりで自分にかけられた誤解を解こうと必死になればなるほど疑われ、理解もしてもらえず、真剣に話を聞いてくれる人もいない。

そういう環境の方は作中の配偶者がいつも言葉にする〝普通〟が何なんだろうと思わずにはいられなくなり、一体普通とは何が普通なのか判断が出来なくなってくる事に自分自身で追い詰めてしまうのです。

作中の最後では、同じ環境の女性が共感しながら体裁を気にせず悩みや愚痴を言い合う場面が印象的で、自分の子どもに手をかけてしまった女性に、少なからずこういった存在や言葉があれば…と哀しくなります。

違う境遇の人に対し、自分の想像を超えそれを悪と除外するのではなく一歩考えイメージするのは人として限りなく重要な事なのではと思える作品です。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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