一緒に、同じ歩幅で。

岩上 喜実

その日は2017年のお正月営業が終わり自宅に帰った私は、お客様やスタッフとの時間が楽しくて心地よい疲労感と共に今年も沢山働いて色んなお客様に会えますように、そして沢山イラストが描けますように、と楽しい希望の日々を口に出して夜の時間を過ごしていました。遅めの夕食も終わり主人とリビングで寛いでいる時間に、肩がこっていたのでリンパをなぞりながらマッサージをしていると左の脇当たりから胸にかけ何か熱を発している異物があるという違和感があり、直感なのか何かの勘なのかすぐに診てもらわないと…と感じたのを覚えています。

それは、まるで胸の中に球体のメラミンスポンジが入っている感覚でした。触ってみるとほんのり柔らかく、でも少し芯があり、気になりだしたら不安が止まらなくなったので症状を調べてみると、30代で出産経験の無い私が当てはまり胸のしこりからみられる病気は「乳がん」と「乳腺症」ということが分かりました。世代の違いや、出産経験の有無で違ってくるので、とにかくすぐに婦人科に行き診て貰うことにしました。その時主人に話したところ「すぐに診て貰おう、明日行こう」と背中を押してくれたのも早期発見に繋がったと思っています。この時「気にしすぎじゃない?」と言われていたらもっと発見が遅くなっていたと思います。

 

病院に行くのは誰でも少し憂鬱になります。

検査をすれば何か発見されるのではないか、費用だけがかかって様子見じゃないのか、時間が読めなくて休日が潰れてしまう。こういった理由が多いと思いますし、大きな病気や手術をしたことがなかった私は「私は健康だから大丈夫」と思って風邪を引いたときもなるべく自分で判断し治癒をしていました。ですが触って分かる不安の塊と、主人の後押しで迷うこと無く婦人科に向かえました。

 

診察は超音波(エコー)と触診で進んでいき、先生の「何でも無いよ、薬を出しておきますね」という言葉を期待していましたが、エコーにぼんやりと写った白いボヤッとした塊は素人目に見てもあまり良い物じゃ無いという姿だったのと、先生の少し低くなった「乳腺外来のある病院への紹介状が作るので、詳しく調べてもらいましょう。明日はちょうど専門の先生の往診の日なので、できれば明日行って下さい」という声で調べていた「乳腺症」の項目は消え「きた、がんだ。」と思ったのを覚えています。この時点での大きさは22㎜ほどが確認され、まだ詳細が分からないので「腫瘍」と呼ばれていました。

帰りには妙に丁寧に受付にも挨拶をし駐車場に停めていた車に座った瞬間、胸の鼓動が強くなりました。いてもたってもいられなくなり主人に「ちょっと、良くないかもしれない」とメッセージを送り返信がくるまでの間「どうしよう、絶対心配する。どうしようどうしよう」と運転席でうずくまっていました。

この時、すぐに不安なことを伝えられる相手がいる事にとても感謝しました。

それまではお互い大きな病気も無く、仕事が好きで、たまに旅行に行ってと喜びや楽しみを分かち合ってきた中で、初めて出来た大きな身体の不安を伝えることが出来たので、不安ながらも冷静に色々判断が出来たのだと思います。

 

‪明朝、紹介して頂いた病院に行き再度エコーと触診、そして胸を挟んで検査をするマンモグラフィーをしたところ24㎜の腫瘍を確認。この時点でも腫瘍はがんとは呼ばれず、「針生検しますね」と伝えられ何か分からず横になっていると検査だろうと余裕ぶっていた私に猛烈な痛みがきたのです。‬

‪麻酔をしているから大丈夫と思っていたのですが、カチカチという音と今までに受けたことの無い乳房の痛みに衝撃を受けた事を先生に伝えると、とても丁寧に看護師さんと一緒に説明して下さりホッとしました。‬

‪この事からちゃんと分からないことはしっかり聞いて理解して検査を受けよう、きっと知らないまま受けるのは怖い、嫌だという気持ちに繋がるから理解して、しっかり受け止めながらしようと決めたのです。自分の身体なのだから当たり前のことだろうと今では思うのですが、その時は一つ一つが怖かったのです。‬

思えばこの時にこう感じられたからこそ、その後の検査が苦ではなくなり始めたキッカケだったのかもしれません。そしてその後の手術を含め現時点の治療までで一番痛みがあったのは、この針生検だったと思います。

そして2週間ほど細胞を病理検査して貰い、詳しいことが分かるのです。

 

不安な霧の中を歩くより、一緒に同じ歩幅で歩いてくれる人がいて、そして少しづつ晴れた安全な道を歩んでいけている気がする。それが何よりの安心感でした。

先生や看護師さんとちゃんと話せたことも、とても良かったことだと思いました。

 

今回の発覚から針生検までかかった費用は、最初の触診とエコーで3,000円。次の触診、エコー、マンモグラフィー、針生検で大体20,000円でした。(全て30%負担での計算です)

検査がいくらか分からなくて面倒になって居る方も多いと聞きますので、何かの参考になればと思い検査の金額も載せていき、一人でも何かの不安から楽になりますように、そう思いながら記しています。

 

次回は病理検査後の診察や手術までの流れをお伝えしたいと思っています。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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