自分だけの永遠に愛せる雑貨⑤布

岩上 喜実

一番はじめに雑貨の仕入れをした時の事は良く覚えています。今では多く見られますが、当時書店の中に本以外のものを販売するというのはあまり事例が無く、勤めていた書店でも前例がないので誰も取引方法が分からなかったのです。それでも私には置きたかった雑貨があり、関東関西に行けば気軽に手に入れることが出来る物をこの山陰でも手にとって選んで貰う楽しさを分かって貰いたいと思っていました。それが『かまわぬのてぬぐい』です。

 

まずは上司の許可も得ずにカタログを仕入れ、掛け率や展開方法を勉強し時期が来るのを待つことにしました。

なぜそんなに『てぬぐい(手拭)』に魅せられたのかというと、まずは柄の多さ、美しさです。かまわぬさんのてぬぐいは明治時代から続いてきた注染という技法を使い、職人さんの手によって作られます。木綿100%の素材で花亀甲や疋田文、麻の葉や市松模様など和柄が多いと感じる方も多いと思いますが、北欧のような柄や水玉模様、パンやチョコなどの素材をモチーフにした柄も多く、柄だけを眺めていてもとても楽しいのです。

その柄も畳んだときにも分かるような小ささの柄や、拡げて初めて分かる大きめの柄など、楽しみ方が広がる物ばかりなのです。

そして書店で夏祭りを行う事が決まり、上司から初めて取り扱いを許可して頂き地元の人たちに『かまわぬのてぬぐい』の良さを届けることが出来る出発点になったのです。今ではその書店の大型店舗には必ず常設してあり、期間限定で大きいフェアを開催したり、オリジナルを作ったりとより多くのお客様の手に渡っていることを秘かに喜んでいます。


そして私自身はてぬぐいを集めることが趣味になり、数年前数えてみたら1,000枚は超えていたので近年は買うことを控えめにしています。何に使っているの?と良く聞かれますが、ハンカチ代わりにはもちろん、トートバッグの中身隠しや首元の日焼け防止、インテリアとして額に入れたりかごの埃よけとして掛けたり、日本酒などのプレゼントには必ず手ぬぐいを巻いてラッピングにします。

洗うのもお湯や洗剤を使わずお水で洗って、しわを伸ばしながら干すだけですぐに乾くので旅行先にも必ず持って行くようにしています。10年以上経っても飽きることなく使い続けられる布って他にはあまりないと思います。もっと沢山使ってぼろぼろになるまで使い続けようと思いますが、1,000枚を使い切るまで家事を頑張らなくてはいけませんね。

 

2つめは麻の素材を100%使用した『fog linen work』の布です。

Fogのリネンに出会うまで、私の麻の印象は「ごわごわしていて、何だか扱いづらい」と思っていました。ところが一度洗濯をしてみるとアイロンをかけるとパリッと洗練されたイメージに、そのままだとフワッとしたナチュラルな印象にと使い込むうちに自分の肌に馴染んでくる、そんな不思議で魅力的な素材なのです。

服も沢山販売されているので、ワンピースやだぼっとしたパンツなど購入しましたがシンプルなキッチンクロスは中々着ることの出来ない柄を選び、テーブルセッティングを楽しんでいます。時には食器拭きに、時にはお弁当包みに、色々な使い方で楽しませてくれるそんなリネンなのです。


わたしにとっての「てぬぐい」の時は初めて雑貨の仕入れをする時で、とても慎重に何度も仕入れ計算をし直し、入荷までドキドキしていたのを思い出します。

 

雑貨の仕入れというのは大きく二つに分けると仕入れ価格100%で買い取る「買い取り」と大体80〜65%で仕入れ、一定期間売れなければ返却できる「委託」に分かれています。

確実に売れる物は勿論買い取りにしたい販売側ですが、全部を買い取りにしてはお店の運営が回りません。ですので「買い取り」と「委託」を上手く使い分け上手く店頭展開し販売しなければいけないのです。その他にも「差し替え」などがありますが、ほぼ全てのメーカーに通用するのが最初の二つになります。

そしてもう1点仕入れで気をつけなければならないのが、メーカー側が決めている最低受注金額です。1点欲しい物があったとしても同じ品を10点頼まなければいけない等があります。その他にも全ての製品も合わせ数万円以上でないと発送料が自分(自社)持ちになり大型の物だと急に仕入れ金額が大きく跳ね上がってしまうのです。

ただ単に「可愛い物」「売れると思う物」を仕入れるのではなく、メーカーさんとの信頼関係や、自分のお店のお客様のニーズ、金額を照らし合わせるのがとても大切な事だと教わりました。それは、お客様相手の全ての仕事に通じること、ということも。

 

今回の連載は雑貨屋さんをしてみたい、という方にも読んでもらえたらと思って始めました。私の人生の中で「雑貨屋さん」だった期間は数年間だけでしたが、上司が信頼してくれたおかげでとても沢山の事を学ぶ事が出来ました。それを何か形にしておきたいと思い書き記しています。

雑貨屋さんはとても楽しかった、そしてとても難しかった、と今は感じています。

 

では、また日曜日に。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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