ぶれないコンセプトを持つと全ての事柄は意味を成す

岩上 喜実

カフェが好きという方は多いと思いますがどんなにお気に入りのお店でも、ここのカフェ、あそこがもう少しこうなったらもっと好きだけどな…みたいな惜しい!という気持ちになった方はいませんか?そしてその後、私がする事になったら…という頭の中で自分好みの完璧なカフェが出来て楽しくなってしまいますよね。そういった方が多いのか、カフェをする事になったと言えば「羨ましい!」と沢山言われました。私自身も食べる事が大好きだったので、カフェをする事が決まった時に先ほどお話しした頭の中の自分好み100%カフェを思い描き「カフェの店長かぁ、えへへへ」と今だったら後ろから叩いてしまう位のん気に構えていました。

居抜きという条件でカフェを始めることになった私は、飲食店を経営する上で最初の難題である『場所』探しが省かれたのですがそのお店の規模が想像より大きかった為思い描いていたコンセプトやメニュー構成を一から始めることになりました。

最初のコンセプトというのが

「とにかく可愛らしくおしゃれで不定休でモーニングから夜定食をして、食材も全部地元のものにして畑で野菜やハーブを栽培して紅茶はお取り寄せにして日替わり野菜スムージーとかあってコーヒーもこだわってたっぷりのマグカップで出して本棚には本を沢山置いて図書館みたいに貸出とかして一人でも大勢でも気軽にお友達の家に来る感覚で足を運んでもらえるカフェ」

といった恥ずかしいものでした。

まず来て頂きたい世代層が決まっていないのに「可愛くおしゃれにしたい」。

野菜を作ったことも無いのに「野菜やハーブを栽培したい」。

調理人も取引先も決まっていないのに「食材を全部地元のものにしたい」。

どのくらい人を雇うかも計算していないのに「不定休でモーニングから夜まで」。

全ての考えが浅く、希望を積めば積むほど積み木のようにガラガラと崩れていくという繰り返しの作業でした。

かといって全く合理的で計算し尽くされたコンセプトというのは面白みが無く、魅力も無くなってしまいますので自分の中で「今すぐではなくても数年後完成に近づくよう育っていけるコンセプト」を作りました。

最初はランチタイムから夜のお食事まで、一人でもご高齢の方も入りやすく特別な日で無くてもつい足を運んでもらえるカフェ。そして気軽に来てもらいお店を続けるには金額設定も安すぎず、高すぎず、仕事で嫌なことがあった日にホッとできる接客を心がけ10年続くお店にする。というコンセプトに変更しました。

10年後の43歳の私が、ここでコーヒーを淹れているのを想像しながら。

細かいコンセプトを作ってからは、沢山の考えなければならない事に枠が出来、はみ出さないようすぐに軌道修正が可能になりました。それはインテリアやメニュー構成にも表れ、訳の分からないハードルの高い物では無く半歩だけ上の親しみやすいメニューとインテリアにしました。ランチメニューで人気のビーフシチューもローストビーフ丼もそうですし、夜のメニューもほんの少しだけ家では出来ない特別感というのを考えています。

ですがイタリア料理や和食のようにカテゴリーがない分、常に「このカフェらしさ」からぶれないよう今も新しいメニューには気を付けています。そうすることによって来て下さるお客様にメニューを見て「なんか方向変わった?」と感じて貰いたくないからなのです。

コンセプトとは方向性を決める上で大変重要な事だと今でも強く感じています。より具体的にどんなお客様に来て頂きたいか、その為にはどういったお店を作り、どういった想いで働くべきなのか、そして数年後の自分がしっかりとその場所にいるのか。全ては繋がっていると思います。

カフェをして5年、お店を始める前の想像していた5年後の自分は思っていたより楽しそうに仕事をしています。それがとても嬉しく、コンセプトをしっかり作っていて良かったなと思っています。

いま飲食店で働いている方は、どんな方にどんな風に過ごして頂きたいかとコンセプトをイメージしていくと今の仕事がより細分化され意味を成す事に変わると思います。そのイメージ通りに変わった時がこの仕事の楽しさの一つかな、と思える様になりました。

ですがそう思える様になるまでにはまだまだ大変な事が待っていました。お店とは人が作るもの、人捜しです。それはまた、次回に。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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