自分の物差しをたまには裏返してみる
ふとした時に少しだけ妄想をする事があるのですが、それは小学生の時からの癖で軽めの妄想の時もあれば宇宙規模の妄想の時もあるのです。小学4年生の時は掃除の時間は妄想の時間と決めていて「人間はどこからやってきて、どこに向かっているのだろう」がテーマでした。結局答えはいつも頭の中のブラックホールに入ってしまい見つからないままでしたが、担任の先生や友達にも恥ずかしいので言わない様に過ごしていました。その、訳の分からない壮大な妄想に、沢山の可能性を秘めた数々の答えをくれた作家さんがいます。S.Fとはサイエンス・フィクションの略で科学的な空想にもとづいたフィクションという意味なのですが、それを「すこし・ふしぎ」と略した『藤子・F・不二雄』さんです。
ドラえもんがあまりにも有名な作家さんですが、短編集を読んだことのない方は是非読んで頂きたいのです。ドラえもんの絵が好きだったので最初は気軽に読める短編集だからパラパラと読んでみよう、という軽い気持ちで椅子に深く腰掛け肘をついてめくっていたのですが、少ない物語で5〜6ページ、長い物語でも20数ページの短編全てに心を奪われ、口で息をするのを忘れ、椅子の背もたれに背中をつけるのが惜しいくらい前のめりになり夢中で頭をフル回転させていました。
あの、愛らしい絵にこの中身は…ものすごい平手打ちをくらった様な衝撃で、何度も何度も読み返しこの作家さんが言いたい本当の事は何なのだろう、と考えさせてくれます。
まず衝撃を受けたのは「ミノタウロスの皿」(69)という作品。最初はよくある宇宙船が見たことのない惑星に到着した所から始まります。人間と同じ生物がいて言葉も通じ呼吸もできるのに何かが違う。
食べるもの、食べられるものの意味に関してこの作品を読むまで深く疑問を持たなかった不安、こんなに分かりやすい不思議と恥ずかしさを形にしてくれたこのお話は、読んだことのない方には必ずお奨めしています。作中にも出てきますが「言葉は通じるのに話が通じないドロ沼を歩き回るようなもどかしさ」は今の現代でも様々な問題に当たるこの言葉が、私の頭にずっと残っているのです。
もうひと作品挙げるとしたら「定年退食」(73)です。ほのぼのとした日常を過ごす定年を過ぎた74歳の男性の朝ご飯風景から始まるのですが、文明が発達しても世界的な食糧事情の悪化が原因で年金、食糧、医療その他の国からの保証を72歳までで打ち切ると決められてしまいます。主人公のそれを受け止め、清々しい諦めの一言が胸に残っています。
引き際というのはとても難しく、自分のこれまでの事を全否定されているような気になりますが時間の流れや周りに逆らわず、受け止めているこの主人公に憧れています。私自身もいま、何かを諦めて何かを決める所にきています。思いの外寂しく、不安もありますが、今までの自分を自分が信用し次に進むことが大切なんだと感じます。この主人公のように、清々しくありたいと思っています。
他にも「じじぬき」(70)「自分会議」(72)「間引き」(74)「コロリころげた木の根っこ」(74)「大予言」(76)「やすらぎの館」(74)「気楽に殺ろうよ」(72)「イヤなイヤなイヤな奴」(73)「ノスタル爺」(74)「クレオパトラだぞ」(80)などなど…全てに大きい意味がなさそうな始まりなのに、最後の1ページでとてつもない怖い疑問を読者に投げかけて終わる、「すこし・ふしぎ」どころではない不思議で溢れ、ストレートでいて胸にくるタイトルのセンスも、好きな所のひとつです。絵の可愛さと親しみやすさで通り過ぎてしまいそうになりますが、新しい視点を作ってくれた大切な短編漫画です。
短編集は少しだけ頭を柔らかくして読みたいので、ビールをお供にしたいです。お昼なら、ノンアルコールビールもいいですね。泡が消えないうちに短編集は終わってしまうのですが、自分はアルコールに酔っているのか、話に酔っているのか分からなくなるのが楽しいのです。
「異色短編集1 ミノタウロスの皿」小学館文庫 9784091920614
「異色短編集2 気楽に殺ろうよ」小学館文庫 9784091920621
「異色短編集3 箱船はいっぱい」小学館文庫 9784091920638
「異色短編集4 パラレル同窓会」小学館文庫 9784091920645
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