大事にしたい言葉の手入れ

岩上 喜実

どう言ったら正解なんだろう、と思ったことはありませんか? 

友人や仕事仲間が相談をしてくれた時、何か元気になるような一言を言わなければと焦ってしまい、結局少しずれた言葉のチョイスをしてしまって「あー…違った…」なんて事は経験ありませんか。タイミングや自分の体調、仕事量などの状況にもよりますが、出来ればいつも良い言葉のチョイスをしたいなと思ってしまいますよね。30代前半まではその言葉のチョイス方法が分からず、沢山場違いな言葉選びをしてきました。それは相手から言われた訳ではなく言った瞬間の相手の表情やその後の行動や言動で分かるのですが、何より言った本人である自分が納得していなかったからです。格好付けて助言や格言の様な事を話したつもりなのに、何だか胸の中に霧が発生しているような見晴らしが良くない感情でした。


その時なぜ下手な言葉のチョイスをしてしまったかというと、相手はどんな一言が欲しいかという事を考えずにどの角度から見てもまっとうな正論をぶつけてみたり、逆に感情が込もっていないような適当な返事をしていたからです。誰だって話を聞いて貰いたいだけの時は正論ばかりの返事は鬱陶しいだけですし、何か解決法が欲しい時に同調だけされるのはモヤモヤとしてしまいます。

 

失敗ばかりしていたその時の私は20代の時に比べ経験も知識も増え本も時間があれば読むようにしていたので、まだ自分のものにしていない頭でっかちな言葉ばかりを自分の引き出しにしまい情報量だけ沢山増えるだけ増えてしまって上手な使い方が分からなかったのだと思います。

私の中のイメージですが、得た言葉は一度頭の引き出しにしまい、余裕のあるときに取り出し分析をし、意味を把握していつかすぐ取り出せるように整理した頭の引き出しにしまいます。本当のお部屋の引き出しのように、溢れてこないよう使わない言葉は捨て大事にしたい言葉の手入れをし、どこにあるかを覚えておくとすぐ取り出せるようになります。

 

難しいような言い方をしていますが、例えば「ありがとう」という言葉の前後に何か付け足す言葉は普段何を使っていますか?

「いつも」「ありがとう」「助かっています!」と前後に付け足せば「ありがとう」の言葉自体の価値がぐんと上がっていきますし、今までの行為まとめて感謝している事が伝わります。逆に「どーも」「ありがとう」だと、「すいません」の代わりのお礼の言葉として受け止められ、素直に「ありがとう」を受け止めることが出来なくなってしまいます。一つの単語を一つで終わらせずに、自分が使うことでより価値のある言葉にするのが大人のコミュニケーションマナーだと思います。


相手に想像力を膨らませ、尚且つ気持ちをきちんと伝えるという事を意識して大切な言葉をより輝かせるのは、何より楽しい言葉の勉強だとも思います。この場合は「ありがとう」という言葉を引き出しから取り出し、どういった言い方が相手によりよく伝わるのだろう、と分析した結果だとも思います。
他には「大丈夫、何とかなる」という言葉は、問題が起きた時に本当に「何とか出来る」人でないと使ってはいけない言葉だと思っています。入社したばかりの新社会人が会社で危機に立たされた時に「大丈夫、何とかなる!」と言われても周りは信頼したいけど出来ないのを知っているので一層不安な状況になります。自分の力量と立場、そして誰に対して伝えているのかを大切にしなければ言葉は何の役にも立たないのです。

 

今はSNS全盛期とも言える時代になっていますので、こんな私でもイラストエッセイストという職業に就けますし魅せ方を考えれば仕事に繋がるようになっています。ですが意地悪な角度で見てみると言葉のチョイスが少し残念な方が多く、本当に意味を分かって使っているのか不安になる方が多いですしそういった方に実際お会いすると、どこかで聞いたような言葉の使い回しをして話が面白くない事に気付きます。言葉を仕事に使用しているのなら見た目だけを綺麗にしても、言葉に魅力がなければいけないと反面教師にしています。
ただ、私自身もまだまだ使いこなせていない言葉が何万個もあるので、上物だけの言葉は捨て一つでも多くの言葉を自分の言葉として使えるような大人になりたいので私は本を読み続けているのだと思います。

コミュニケーション能力を上げたいのなら、自分の言葉を増やし想像力を膨らませることが一番だと思っています。

 

その想像力とは何なのか、それはまた次回に。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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