生きる事を意識する、邦画5選
人は必ず死ぬことが決まっていて誰も死から逃れることが出来ない事を知った小学生の時、自分もいつか死ぬという事が怖くて怖くて、それなら何故人は生まれてくるのだろう、とやけに哲学的な悩みを持ったことがあります。今は死ぬことが怖くない訳ではないですが、いつか死ぬという時まで生きることを全力で楽しみたいと思っています。それは1年前自身の病気と手術を経験したからですが、生きて笑えてご飯が美味しいという事がどれだけ素晴らしい事なのか、そしてそれが出来ている今この時をきちんと大切にしていこう、と思っています。そしてその気持ちを観る度に色濃く思い出させてくれるのが今回ご紹介する作品で、生きるという事を胸に刻んでくれる邦画5選です。
「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)主演:宮沢りえ、杉咲花
余命数ヶ月を宣告された主人公が血は繋がっていないが愛している娘の為に厳しく、そして溢れるほどの深い愛情で残される人達の為に〝最期〟のすべきことを進めていく作品です。娘のいじめのシーンや病気が進んでいくシーンはやっぱり悲しくて、このまま悲しい話で進んでいくのかな、と思っていましたが、死を宣告された女性の強さたるもの何にも代え難い美しい強さで話は進んでいきます。強いことは優しいこと、そしてそれは美しいこと、というのを目の前で見ているようで果たして私自身はこんなに美しく死ねるのだろうかと思う程素敵でした。死を覚悟してからの主人公の行動は全てが娘の為や人の為に動いているので、人は最期の覚悟を決めてからがその人の本質が出るものなんだということ、そして受け入れたつもりの死をやはり死にたくない、生きたいと願った時、本当の今の景色が広がるのだという事を感じました。
最後のシーンには少し驚きましたが、全体を通して死が近かろうがいじめが辛かろうが、全てが生きてこそだということを改めて知ることが出来た事と、生きる、ということを味わえる人の優しさを感じられる作品です。
「四十九日のレシピ」(2013)主演:永作博美、石橋蓮司
突然死んだ母の残したレシピを再現する、夫に不倫された主人公が実家に帰り妻に先立たれた父と若者2人との物語です。大切な人が急に目の前から居なくなってしまう事や、自分が死んだ時、何が残せるかを考えていた時に観た映画だったので「自分の四十九日用のレシピを残す」という発想に驚き、とても素晴らしい事だとも思いました。自分の得意だった料理や、家族が好きだった料理を自分のために集まってくれた四十九日(お通夜や葬儀ではないのがポイントだと思っています)に、みんなで食べてお腹がいっぱいになって笑顔でさようならを言う、そんな法要だったら私も上の世界から覗いてきっと嬉しくなってしまう、そんな考えになりました。生きているうちにしておきたい事は、周りの人達を私が死んでも笑顔で暮らしていける準備をしておく事、それがとっても心に残る映画です。
「この世界の片隅に」(2016)長編アニメーション 声:のん
原爆や戦争の話をこんなにも日常的に描いた漫画を他では見たことが無かったので、最初原作を読んだ時戦争は夢の国のお話ではなく今ここに突然始まっても特別ではない事に気付いた衝撃で、その夜怖くて部屋でぼろぼろと泣いた記憶があります。その原作に忠実な作りの長編アニメーションで戦時中の新婚生活や節約生活の工夫、そして何もない時代のはずなのに豊かな会話と笑顔が作品に彩りを与えてくれ、それまでの戦争のイメージは何故かモノクロの世界で皆笑わず、勝利だけを祈るダークなイメージでしたが、この作品は日常に戦争という項目が入ってくる、という位置付けになるのです。原爆も、戦争も、死も、涙も、全部出てきますが観た後は、大きな世界の片隅で一緒に生きていきたいと思える人と一緒にいられる素晴らしさをジワリと感じられる内容とコトリンゴの歌にのせ、ただただ温かい気持ちになります。
この世の中という広い世界の片隅で私を見つけてくれてありがとうという一言と、痛いや悲しいや悔しいだけではないただの戦争もののアニメーションではない作品だと思います。
「生きる」(1952)監督:黒澤明
確か亡くなった祖父と観たこの作品は、市役所で働く男性の胃にガンが見つかり死ぬまでの間それまで出来なかった遊びや公園作りに奮闘したりしている内にやる気が漲ってくる主人公…の葬儀で後半終わるというストーリーですが、死を意識していなかった市役所勤務の時より、ガンで死を意識してからの方が明らかに輝いていて生きる意味を自ら解くように生きていく姿が、滑稽ながらも美しく見えてくるのです。黒澤明さんの最高傑作は「七人の侍」かもしれませんが、私の中ではこの「生きる」が独特の黒沢節が光り、感動するとか考えさせられるという事より尚かつ主人公の俳優が現代には居ない魅力に溢れている演技が見所な作品なのです。
「ぐるりのこと。」(2008)主演:木村多江、リリーフランキー
几帳面な妻と法廷画家の夫との間の初めての子どもが亡くなったことによって、哀しみで心を病んでしまった妻を温かく支える夫の10年間の物語です。というと苦労や哀しみが渦巻いてしくしくと泣きながら過ごす日常、を思い描いて観ていたのですがそれは全く違っていて、ちゃんとした妻はちゃんと生きたいが子どもが亡くなったことによって〝全部〟だめになったと思い込んでしまっているが、以前からちゃんとしていない夫は「ちゃんと生きなくても俺はお前が好き」というその場だけではない愛情で、ただ側にいる事を選んで側に居る事が夫の最大級の優しさなのです。愛情や苦しくても生きるということは、理解し合うことではなく理解できないものから目を背けないこと、それを淡々と深く生き、世界の全部は背負うことは出来ないけれど自分の隣の誰かは何とか出来るかもしれない、そんな小さいけれど温かい希望を持って生きるということは、とても強いことなのだと思える作品でした。
今回は少し古い作品から、割と最近の作品までをご紹介させて頂きました。人生って死にたくなる出来事なんて沢山あって、でも生きて行かなくてはならないのなら、昨日より少しだけ明るい気持ちで明日を迎えることが出来たら、何て素敵な事なんだろうと思っています。それを観る度優しく思い出させてくれる、映画がとても大好きなのです。
このブログを見て下さる方の中に少し辛いことがあった方がおられたら、何か良いことがありますように、そう願っています。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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