人の憎悪がいちばん怖い

岩上 喜実

私の見かけはポッチャリしていて、その上えびす顔なので初対面の方やそんなに深く話さない方からはよほどノンビリとした起伏の激しくない女性に見えているそうですが心の中は腹の立つことがあれば「くそっ」と思ったりしますし、嫉妬だってもちろんします。ただ、罪を犯すほど引きずらないのは今の生活が好きで楽しんでいる中でのほんの少しの『嫌な事』という分類なので時が経てば忘れることがほとんどなのです。

ですがそんな「くそっ」が溜まりに溜まって、吐き出すところも気持ちの切り替えも出来ない生活をしていたら恐らく色んないけないことをしてしまうような気がします。

そしてお化けよりゾンビより(会ったことはないけれど)怖いのは人の憎悪や嫉妬だと教えてくれたのも連続ドラマだった気がします。

「白夜行」(2006)

原作が東野圭吾さんなので、観る前は理系でがっちりと組み立てられたストーリーだと思っていました。ですが罪には色んな罪が有り、それを隠そうとすればするほどまた罪が重なり、どんどん色んな人を巻き込み終着点がなくなるという心理描写巧みなドラマなのです。

本当の罰は法的なものでも物質的なものでもなく、心と記憶に下されるもの。それが例え小さな罪だとしても自分のすべき事に責任を持ち、発する言葉の重みを自分自身が感じるべきだと思えた重量感のある連続ドラマでした。

「銭ゲバ」(2009)

漫画原作でお金に翻弄される主人公を演じる松山ケンイチさんが怖くて悲しくて寂しい雰囲気は最終回が終わった後もずっと後味悪く、こんな救いが全くないアンハッピーなドラマをリアルタイムで観ていた私は未だに何故か観返したくなるドラマの一つです。突っ込みどころは沢山ありますが、お金に対する執着や概念が恐ろしいほどマイナスに動いていて、ビョーク主演の映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」(2000)のような気持ちのスッキリしないドラマでした。少し何かが違えば好転するのに、どうしてそう逆回転のことばかり…と思い何とも言えない気持ちになります。

「水曜日の情事」(2001)

先の2本とは全く違うタイプの連続ドラマですが、不倫コメディとも言うべきコミカルで面白かったドラマなのに女性の怖さが淡々と描かれていて自分も女であるにもかかわらず女性の嫉妬や憎悪は何て怖ろしいものなんだと記憶に残っているのです。

出版社勤めの夫と、リフォーム会社を経営する妻と、その妻の友人である未亡人の女の関係が男性側からしたら二人の女性を弄んでしまっていると思い込み、女性二人からしたら一人の男性がやじろべえの様にあっちに行ったりこっちに来たりというのを面白可笑しく観察しているような気がします。男性の間抜けさを描いた脚本が、女性の親友関係なのに一番の敵という怖ろしいドラマでした。

そして、なぜ『水曜日』なのかというと月曜と火曜は週の初めだから後ろめたいことは出来ない、木曜と金曜は会社の接待で予定が埋まりやすく土日は家族サービスをする、という事で愛人に残された曜日は水曜日だからだそうです。

そしてこのドラマの放送日は水曜日に放送されていたのです。愛人と観るドラマなのか、と後から思い何て面白いドラマなんだろう、と今でも思っています。

「ゴーストライター」(2015)

人気女流作家が物語を作れなくなった時、若い才能溢れる女性が目の前に現れたら嫉妬という言葉だけでは片付けられない色んな感情が渦巻いてどうしていいのか分からなくなるのだと思った怖い連続ドラマでした。私はイラストレーターとしてのお仕事や、こういったエッセイのお仕事を頂いて20年が経ちましたが、ふと依頼が全く無くなった時の事や、何も描けなくなったり一文も思い浮かばなくなった時、私はどうしたらいいのだろうと思うことがあります。それが一流の人気作家なら重圧や不安はとんでもない勢いで自尊心を潰してくるし周りの全てが敵に見え何が正解か分からなくなるのだと思います。恋愛だけで無く、仕事という内容で楽しめた連続ドラマでした。

ただ単に嫉妬で誰と誰が争っている、復讐のために危険な事をしている、という内容のドラマだったらそのシーズンは楽しく観ていても次のシーズンが始まれば頭の中から抜けていきどんどん上書きされていきます。ですがその憎悪の中に巧みな技が仕込まれていたり、悲しいほどの理由が隠されていたとしたら、映画の2~3時間では捕まえれなかった私の中の何かに捕まることがあるのが、連続ドラマの醍醐味だと思っているのです。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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