④すてきな嘘をついてみよう
嘘とは真実の変装だ、と説いた遠い昔の詩人がいますがどうしても悪いイメージのある嘘は、歳を重ねてみると悪いことだけではないと思っているのです。もちろん物を盗んで「盗んでいない」という嘘や、人を傷つけたり悪意からの陥れる嘘は良くないと思っていますが、色んな立場や家庭の事情からの嘘は一つの大人の嗜みだと感じられるほどセンスの問われる行為の一つだと思っているのです。
例えば同級生のお祝い事に数名で集まってお祝いの品を贈ることになった時、一人いくらまで出せるかというのは本当に人それぞれなので私は周りの状況を見て妥当な金額を言うようにしています。それは私のような主人と二人暮らしで共働き、子どもはいないので冠婚葬祭用の蓄えをしているのですが、それはあくまで私の生活の基準で世間一般の基準とはずれているかもしれないのです。私よりもっと自由に使える蓄えがある同級生もいれば、子どももいて自由に使える金額が限られている同級生もいるので、自分の思う額と違ったとしても最初からそう思っていたよ、というような嘘をつくのです。20代前半の頃はそれがイマイチ分からなくて、自分のその時の生活基準で意見をし少し微妙な空気になったことがあるのでそれが怖く、お金のことだからこそ周りの状況をしっかり見て嘘をつくことも大切なんだと思いました。
仕事の中でも私は嘘をつくときがあります。
今の仕事はカフェの店長と、イラストレーター、イラスト教室の先生をしていますがイラストレーターとしての仕事の際締め切りギリギリのご依頼があった場合、断る理由よりまずは出来る道筋を頭の中で作るように心がけています。それは数あるイラストレーターの中から私をセレクトして下さったお礼のようなもので、かなりスケジュール的にギリギリでも体調が大丈夫なら出来る限り受け依頼して下さった方に対して「全くもって余裕です」という嘘をつくのです。そうすると次の仕事も自然と気持ちよく舞い込んでくるので、イラストの仕事を始めてからはこの嘘はずっとついてきたので、嘘を嘘でないように自分を奮い立たせることが嘘の利点だと思いこれからもこの嘘はつき続けるのだと思っています。
イラスト教室の先生では私は教えている立場なのに生徒さんから思いもよらない技法や描き方を教わることも多く、最初の頃はお月謝を頂いているのにそれは良くないと躍起になって先回りし一人一人の時間割を作成しフル装備で構えていたのですが、段々と生徒さんはイラストを描きながら自分の生活と少し離れたところで息抜きをしに来ていることが分かったのです。せっかく足を運んで下さっても、調子が悪く手が進まずお話しがしたいだけの時のサインを見逃さないようにし当日の時間割があっても生徒さんの気持ちを一番に最優先していこうと思い「時間割なんて作っていないですよ」という嘘をついてペンを置き、話したいお話しを全力で聞くようにしているのです。
そしてカフェの店長の際には、常に最上の嘘をつきながら仕事をしているような気がします。お客様が過ごしやすくなる雰囲気を作るために頭をフル回転させ、どのように動いたら一番いいのかを考え色々身体が辛くなってきた40歳の私が20歳も違うスタッフと同じように、またはそれ以上に動けるように「まだまだ動ける」と自己暗示のように自分に嘘をついているのです。怠けるのはいつでも出来るのですが、その嘘をつきながら働くことを一番私自身が楽しんでいたりするのです。
家に帰ればその嘘のせいで家事なんか何も出来ないくらいグッタリとしてしまいますが、自分につく嘘は清々しいくらい悪意がなく誰も不快な思いをしないのなら、と気に入って使っているんですよ。
嘘をつくという事は嘘をつかれる覚悟もなくてはならないと思っているのですが、カフェの店長をしていると過去のスタッフに様々な嘘をつかれていたのを今でも時々思い出すことがあります。
それはサボりたい時の嘘だったり、ミスをした時の自分を守るための嘘だったり、辞める時の嘘だったりと色々な種類の嘘がありますが、上記のように私は嘘つきなので自分より年下の嘘は大体爪が甘いので分かり、昨日飲んでたから出たくないんだろうな、ミスをして怒られたくなかったり評価が下がるのが嫌なんだろうな、辞めたくないけど辞めなければならない風に見せないといけないんだろうな、など本人達はバレていないつもりなので私は知らないふりをし嘘をつかれているフリをしている事に気付いていないのです。
今はSNSでも分かりますし、他のスタッフからの話にも出てきますし、何より忘れた頃にその話を振ると全く違う答えが返ってくるので嘘の形が出来ないまま嘘をつくとこんなにも滑稽なのだと呆れてしまったのです。嘘と、言い訳は似て非なるものだと気付かなければ信頼はどんどんなくなるものなんですよね。
嘘をつくなら誰も傷つけず形を整えてから嘘をつき、誰かに嘘をつかれてもしょうがないという覚悟を持った方が嘘をつける権利をもらえるのだと思っています。
すてきな嘘を求めて、楽しく心美しく過ごすのも悪くないなと思います。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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