⑧汝よペンを取れ、キーボードを叩け。

岩上 喜実

生活のあらゆる場面で文章を作成するという事が多いと思います。仕事での取引先とのメールのやりとりや上司に渡す報告書、生活の中では毎日の中で当たり前の連絡ツールになった言葉でのやりとりは、使用方法は違いますが全て頭の中の伝えたいことをまとめ、文字にし、相手に的確に伝えるという文章作成の毎日だともいえると思います。

ですが大人と言われる年代の女性の文章があまりにも読みにくかったり、誤字脱字が目立ったり、引用する言葉の意味合いが違っていたり、中には面白いとは思えない自虐の冗談のようなものを絶妙に面白くない間合いで攻め込んでくる文章を目にすることもあります。そういったカテゴリーが世間にあるのも知っていますし、それを受け入れる場所があるのも分かりますが、SNSでの一言やブログでの少し長い文章などある程度の年齢を重ねた女性が、ただやみくもに自分の思いの丈を綴るのは少しだけ恥ずかしいことだと思っています。

それが自分だけ見る日記やメモなら何も問題は無いのですが、周りが見るであろう場所や書類に何の準備もなくいきなり思ったまま進めていくのは少し待って、と言いたいのです。

私自身、こういった所に文章を書いたり自分の本にエッセイを載せることもあるので出来る限り読みやすく、そして特定の誰かをさらし者にする事もないよう有害な文章は書かないようにしていますがそれは有害にはならないけれど何かが心に残る有益もないという事に繋がりますので、せめて何かが心にひっかかるようほんの少量の自分らしさを出すようにしています。

まずは文章を作成するときに意識することが数点あるのですが、まずは『誰』に向けて『どのような内容』を『どのように感じてもらえるか』という事を頭の中でイメージしてみます。先にイメージしておかなければ一体何の為に文章を作っているのか迷子になってしまう事があるので、最終的にどういった自分を演出したいのかゴールを決めることがとても大切なのです。これによって文章と文章の間合いや、冗談を入れる割合、句読点の付け方、相手が目で読むときの目の呼吸、語尾での余韻を組むことが出来るのです。

分かりやすい仕事の報告書を例に考えてみましょう。

仕事の報告書では『上司や仕事仲間』に向けて『仕事での成果や失敗』を『簡潔に分かりやすく伝達』するという役割があります。その時にもちろん冗談の割合は0にしなくては説得力が出ませんし、成果と失敗の報告の順番も重要になり、尚かつそれが簡潔でいてオリジナリティも加えることで固くなりがちな報告書が『私』という自分らしさの出る報告書になるのです。いまいち成果の上がらなかった失敗とも言える報告は最初に持ってくると、報告書内に嵐を巻き起こすイメージで自分を客観的に見て甘えや言い訳を出さないように冷静に報告します。その後に成果の上がった嬉しい報告は嵐が去った後、雲の隙間から太陽が差し込むイメージで徐々に盛り上がるように文章を整えるのです。すると先に伝えた失敗は薄まり、太陽のように輝いた成功だけが読んだ方の頭に残り『失敗はあったけれど、それを上回る成功を成し遂げた』という印象になります。こういったように伝達するべき話題の順番を読む方の気持ちになって組み立てていくと、読む負担は格段に軽くなっていき『私』の書いた報告書にはストーリーがある、という印象を持たれていくのです。

文章にストーリーを持たせるということはとても大切で、その為には一つ一つの文章の語尾に気を配ってみることが大切だと感じています。『です』『でした』の使い分けだけでも印象は変わりますし、もっとバリエーションを持たせて『感じた(感じました)(感じます)』『思った(思いました)(思います)』など自分の持たれたいイメージにあった語尾を見つけることがとても大切な事だと思うのです。

『感じた(思った)』だと、断定している所が強調されているのでやや男っぽい印象になります。それを格好良いと捉える人もいれば、他の人の意見を聞いてもらいにくい人なのかもしれない、と線を引かれる場合もあるということなんです。

『感じました(思いました)』だと丁寧な印象にはなりますが少し他人事のような一歩引いている雰囲気がある語尾なので謙虚だと捉える人も居れば、奥ゆかしくグイグイ前に出てこない人なのかな、というイメージにもなります。『感じます(思います)』だと、自分はこう感じるがみんなはどう思う?という投げかけにも聞こえるのでとても間口が広く広範囲で優しい印象になりますが、前後の使い方を間違えると責任感の無いような語尾にもなってしまうのです。

同じような意味合いの語尾でも、自分の伝えたい人を頭に入れ、結果どう進みたいかをイメージしながら語尾をセレクトすることによって知らず知らずの内に読んだ相手を自分のルートに入れることが出来るはずです。

文章では自分という存在を確かな存在にしてくれる手段の一つだと思っています。

それを何も考えないでただただ思いの通り文章を作るという事は、自分を適当に扱っているという事にもなりかねない事だと思うので、SNSに投稿する際や仕事での文章を作成する時は一度頭の中を整理してから作り始めて見て下さいね。

きっと、思った通りの文章が出来た時、とてもとても嬉しい気持ちになると思いますよ。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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