④大切な友人とお茶をする

岩上 喜実

カフェの店長として飲食店で一日働いていると、沢山の方の日常のひとかけらを見ることが出来ます。それは今までずっと接客業をしてましたが書店ではお一人で来られ言葉を発する方もいませんし、他の接客業でもお客様が会話をずっとしている様子を余り見た頃がありませんでした。

ですが飲食店ではお一人様も勿論おられますが、数人で来られ会話を楽しんでおられる方が多く会話の内容は聞きませんが相談事をしていたり、仕事や日常の愚痴を言っていたり聞いていたり、楽しかった出来事の話をしていたりと、大切なご友人達と話したいと思い自分のカフェを選んで下さるのはとても、とても有り難い事なのだと思っています。

「長居してごめんなさい」という方もおられますが、「もっと長居して下さい」と言ってしまうほど、会話で楽しんでおられる方達の事がとても羨ましく、輝いて見えるのです。なぜなら来店した時より、会話を楽しんだ後帰られる時の表情はとてもスッキリしているように見えたのです。

それまでは私自身、何か仕事でつまずいたり恋愛で悩んだりしても友人に相談する、という事をあまりしてこなかったので人と会話をして気持ちが切り替わる、という流れがいまいちしっくりきていなかったような気がします。

仕事の悩みは自分にしか分からないし、解決するのも勿論自分しかいない。そして恋愛も同じくして悩みも解決も自分と相手しか分からない事なのだから相談する意図や着地点が分からなかったのです。今思えばそんなに人に話すことでも無い事を、相手の時間を割いてまで話を聞いてもらう程の内容ではない、と自分で枠を作ってしまっていたのだと思います。

ですがカフェの店長になり、毎日訪れる色々なお客様達のスッキリしたお顔を見る内に思い切って友人に愚痴や相談事をしてみよう、と思い始めたのです。

なぜ、そんなに大したことでも無い事にこだわっていたのは中学生の頃に受けたいじめの最中、頑張って話しかけた同性の反応がとても怖かったのを思い出します。何気ない相談や愚痴をその場では快く返事をしてくれていたのに陰では「面倒くさかった」と言われていたのを知り、それから自分から発することは極力当たり障りのないように会話を選ぶようになっていったのです。

その後転校した先には、その嫌な事を忘れさせてくれるほど素敵な友達が何人も出来たし相談や愚痴も言えるようになっていたのですが、社会人になるとふと思い出し殻に閉じこもってしまう癖が付いてしまっていたのです。

ですが、学生時代の友人との格好付けなくてもいい関係や、大人になってから知り合いご飯を一緒にするようになった友人達とは自然と自分の思っている事を言えるようになっていったのです。

出会う友人それぞれが自分の仕事や環境に悩みはあれどそれを楽しんでいること、そして何より私自身の存在を優しく見守って必要としていることが分かったからです。

中々会えない距離にいても、会える距離なのにタイミングが悪くて滅多に会えなくても、不思議と会えば自然に悩みを言えたり、そして聞くことが心地良くなってくるのです。

それは私が仕事中出会う楽しそうなお客様達のように、私は心から素直に居られる友人とお茶やご飯をする事で毒素が抜けていき、明日もがんばろ、と思えるのです。

私には大切な友人が少ないですが存在します。その友人の力になりたいし、私の話も聞いて欲しいと思っています。

それがどんなに素敵なことか、これが気持ちの切り替えスイッチの4つめになります。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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