夏の終わりに感じる邦画、3選
夏の終わる時期に感じる、この夏の出来事は全て幻だったのではないかというこの心のふんわり感は何なのだろうと昔から不思議で仕方がありませんでした。
暑い夏はまるで風邪で熱が出たときのふんわり感とどこか似ていて冷静になれば恥ずかしさを思い出させる時もあれば、泣きたくなるくらい楽しかった時もありその高揚感との落差に秋を感じる事がもの悲しく思えるのかも知れません。
どこか心が不抜けたようなダラダラとしたやる気の無い感じが夏の終わりだとすれば、まさにこの時期にそういった映画を観るのもいいのかもしれません。
「きみの鳥はうたえる」(2018)主演:柄本佑 染谷翔太 石橋静河
夏の函館でまだ何者にもなれていない同居している男の子と男性の間にいる曖昧な時期の二人と、その二人の間に自然にいる少し大人びたような少女のような女性一人の、夜通しぐだぐだとお酒を飲み、明日の予定など深く考えないまま湿度の高い髪が首にまとわりつくような夏の夜中にふらふらと、笑い合う。
そんな、なんとなくな関係がひとつの季節をまたぐことなく終わることは目に見えていて大人になってしまった私たちには出来ない当人達は本気そのものの気持ちの揺らぎが懐かしく、ストーリーはそんなに面白い話ではないはずなのに三人が空気感や佇まいや目線が丁度良くて、男性二人同様に彼女の事が好きになってしまう位石橋静河さんの魅力的な演技で何となく観てみようかなと思って観た映画でした。そして夜のシーンが多くその分太陽のオレンジ色が清々しい気持ちにさせてくれるのです。女性がカラオケで歌う隣で、君に恋して仕方のないという男性の瞳が印象的で観ているこちらがドキドキしてしまう演技が印象的な映画でした。
「そこのみにて~」と同じ作家の作品なので、空気感はよく似ているけれどこちらの方がライトな暗さに仕上がっているような気がします。
「ここは退屈迎えに来て」(2018)主演:橋本愛 門脇麦
高校を卒業した頃なんとなくあの頃は県外に出るというだけで格好良く見えたり、羨ましかったり、少し悔しかったり、何とも言えない思いが心の中に生まれていたのを思い出した作品です。今思えば〝何をしに〟県外に出るという目的が大切なのにバイトだけ掛け持ちしていようが、ただ何となく暮らしていても地方の地元から離れて東京に出ていくことがただただ眩しい事だったのかもしれません。
地方に暮らす者と、東京から帰ってきた者、みんな同じ学校で過ごしてきた時間を行ったり来たりする群像劇なので少し時間軸が分かりにくいのが難点ですが、学生の頃はみんなの憧れクラスの格好いい男の子が地方に残り10年経つと何だかくたびれていたり、何となく離れていく感覚や、余計なおしゃべりはうるさいほどするのに大切な事は言わなかったりと起承転結があまりないストーリーの中で、自分が踏み出す一歩に苦笑いしつつも少しだけ吹っ切れたような女性達の笑顔は、退屈な〝ここ〟は場所ではなく自分が立っている〝足元〟の事なんだと思えるのです。
「繕い裁つ人」(2015)主演:中谷美紀
夏の終わりに観たくなる、というよりこれからくる秋に向けて何度も観たくなってしまう映画です。うだるような暑さでダラダラしてしまった夏をばっさりと切り捨て、夏は汗で湿らせた背筋をシャンとしたくなるのです。
物語は神戸の独特な創造性をかき立てられる街並みや風景に、ミシンの規則的な優しい音と出来上がっていく美しい服の物語がぴったりと噛み合っているので、とても品がありながら服を愛する人達の話で気持ちがとても温かくなります。この映画を観ているとお洒落が苦手な私でも一生ものの服が1着欲しくなります。この常に生まれ消費していく世の中では1着に愛着を持ち続けるのは簡単な事では無くなってきているようですが、シルエットや生地の流行はさておき何にも代えがたい自分にフィットしたスタイルや着心地はあるのだと思います。そしてそれらを作っていく人というのは気持ちの体幹のようなものがしっかりしていなくてはいけない、と背筋がしゃんとする思いになります。
想いを込めながら何かをし続けることはとても大変で、とても困難ですが変化も受け止めつつ挑戦し形にしていく為には女性であっても頑固ではならなくてはいけない美しさを感じました。何でもかんでもスピーディーにお手軽に、というのが良しとされますが丁寧に心を込めてする事も忘れてはいけないという事を感じられる作品でした。
やはり歳を重ねると着ているものの品や、その人の仕草の上品さは大切な魅力なんだと思いました。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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