男の人が父になるという事、邦画3選

岩上 喜実

男性が父親になったとき、自分のお腹が大きくなって子どもが産まれたわけではないので、どうやって気持ちが切り替わるのだろう?と女性の私から見ると不思議でなりませんでした。

友人達にその話をすると、やはり人によってそれぞれ違い産まれてすぐに〝お父さん〟になる人もいれば何年経っても微妙な感覚で父になりきれていない人もいるようで一概にはいえませんが、仕事でも役職がついた場合、人によってその役職を受け入れ行動する時間差はそれぞれだと思っています。それと少し似ていて、今までの自分の歩いてきた道が少し変わってしまうのをいつか受け入れる為に、父になる男性も母になる女性も、そして父や母になれなかった夫婦も関係なく日々を奮闘し頑張っているんだなと思える邦画です。

 

 

「半世界」(2019)主演:稲垣吾郎 長谷川博巳

人生を諦めるには少し早くて、焦って何かやるには遅すぎる39歳という年齢の男性3人のストーリーはタイトルの通り「自分の世界で半ばに差し掛かった時に何を考えるか」というのがテーマになっている大人の友情物語です。

地方都市のそのまた奥に住む主人公の男性とその家族は、父から引き継いだ炭の仕事を生業として細々と暮らしている中、学生時代の友人がフラリと帰ってきた所から始まります。学生の頃はただ漠然と自分には素晴らしい未来が待っている期待と少しの不安しかなかった男の子達が、それぞれ〝何か〟を諭し、悩み、そして諦め、でも反発するほどの嫌悪感もない毎日は退屈に見えて日々を生きる事に必死なんだと伝わります。

最初、稲垣吾郎さんが主演と聞き少し躊躇しましたが観ている内にきれいな顔立ちにすすけた仕事と派手ではない家の中の暮らしが妙にはまっていき、最後の方では完全に年頃の息子とのやり取りに困る男性そのものでしたし、同級生の3人でぐだぐだと一緒に居なかった時間にあった出来事を掘り起こすこともない空間は、青春ほど眩しくはありませんが友情を感じる映画でした。

何かを諦めたり自分には出来ない事を知る時とは、女性とは違う何か特別なものがあるように感じます。それを上手に受け止めることができるか、それとも吐き出してしまうか、そういった年齢の男性の世界でした。

稲垣吾郎さんの奥さん役の池脇千鶴さんの演技ではいつも哀しみで泣いてしまいます。

 

「パパのお弁当は世界一」(2018)主演:渡辺俊美(TOKYO No.1SOUL SET)

高校生の娘に3年間お弁当を作り続けた父と、どんなお弁当も(刺身弁当以外は)毎日残さず食べ続けた実話をコンパクトにまとめた作品です。

お父さん役の演技がとても親近感が湧いて、まるで長いCMを観ているような温かい気持ちになります。

娘役の子やそのお友達もパパ弁当を馬鹿にすることなく優しい空気に包まれた映画でその分メリハリがないようになりがちですが、包丁の持ち方も分からなかった父は娘が喜んでくれることだけを楽しみに最後は揚げ物まで出来るようになるのです。遠足などでたまに作るというわけではなくただひたすら毎日お弁当を作る、というその日々の積み重ねの温かさを感じるのです。愛する子に何かを毎日伝える事ができたら、それは娘にも父にも代え難い幸せだという事と、それが上手く形になるお弁当作りというものは何て素敵で深い物なんだろうと思える映画です。

大切な人に対してお弁当ではなくても何かの形で伝える事が出来たら、きっと受け取る方も自分も、幸せなことなんですよね。

 

「ロマンスドール」(2019)主演:高橋一生 蒼井優

夫婦という入れ物はありきたりな言葉だけれど100組100種100仕様なので、その中に浮気やセックスレスやすれ違いやお金のトラブルなどその夫婦にしか分からない入れ物の奥底がありますよね。素材も、容量も分からないまま生活を共にする夫婦の始め方から少しずつのすれ違いが出来る夫婦の話。

この夫婦は夫の仕事がラブドール(昔で言うダッチワイフ)職人であることを隠していたり妻も中々言い出すことの出来ない悩みがあったり、お互い不倫をしていたりと穏やかそうな雰囲気とは少し違う本当の夫婦の形がお互い分からない事で何となくの日常を過ぎていっていました。

ですがひとつの嘘からポロポロと真実がこぼれていき、本当に自分にとっての柔らかな部分にお互いが気付き夫婦の入れ物をたおやかに強くしていくのです。

 

この映画は光をとても大切にしていて、暖色は暖色の光の中の気持ちよさを、寒色は寒色の光の中の気持ちよさを描いており主演の二人が外でお弁当を食べていたり、ソファで向かい合ってお話をしている所を見ていると衣食住全てを自然に分かちあえる夫婦ってとても素敵だなと思えます。

ですが生きていると仕事であったり外敵であったり誘惑であったりと退屈させない何かが動いているもので、それをいかに入れ物に入れていき排除していくかを話し合える時間もとても大切だと思います。

奥さんは最後には夫の元を離れなければならないのですが、そこまでに何が出来て何を話していくか、そういった当たり前の事が人間の気持ちの柔らかな部分を作っているのだと思えたのです。

 

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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