人と言葉に添いたくなる現代的な邦画、3選
気持ちのままに言葉を伝えてしまうのはとても怖くて、その後のことを考えるとどうにも言わない方が良いのではないかと言いとどまる事が多い人間関係。それは何歳になっても世界が人と人が直接会うより画面上の付き合いに変化しても変わらず、言葉というものは難解で、時には優しくて、でも厳しいものなんだと思います。
今回紹介する邦画は全て今現代の人と人との距離感が上手く表されているような気がした映画です。余り期待せずに観て、それが思いの外面白くてこういった文章に残しておきたいと思える映画に出会えるのは本当に嬉しいです。
本だけでなく会話や動画やSNSから世間は言葉でまだまだ溢れていて、その膨大な言葉の中からでも今の自分の気持ちにしっくりくる言葉になんて出会えてなかったりします。自分にぴったりとくるワンフレーズ、一言、それに出会いたくて人は人と話すのを止めなかったり常に情報を何らかの形で得るようになっているのかもしれないですね。人間同士の関係性は時代背景と共に変化はあるかもしれませんが、何かの助けを求めたくなるのは生きた人と生きた言葉なのかもしれませんね。
「月極オトコトモダチ」(2019)主演:徳永えり 橋本淳
男女の友情は成立するのかという、時代が昭和平成令和になっても続くこのテーマは少しずつ形が変化してきている様子で、人と人との間にお金を支払うそして戴くというシンプルな駆け引きなしの関係。それは「いま誘っていいのかな」「いまここ笑ってもいいとこかな」などの気遣い無しというドライに見える関係の、レンタルでの友達関係をする事になったネットコラムライターの主人公の女性。
確かに一人ではちょっと…という状況や女友達でも大丈夫だけど、何となく異性の方が都合が良い場合もあるし、だからといって性行為の可能性を考えるのも面倒くさい。そんな時に気兼ねなく誘える男友達がいればいいけど、大人になればなるほど相手の女性関係に遠慮して距離を作らなければいけなくなる…という見えないループにはまり込んで考えれば考えるほど面倒くさくて、お金で解決できる方を取ってしまう楽さが魅力的になってしまうところには強く共感しました。
そんな私はやっぱりオトコトモダチはいなくて誰かを誘うのを考えるくらいなら一人で行く、と思ってしまうほど大人になったのだなぁと感じる映像がやたら大人の青春をしている雰囲気が嫌な気持ちにはならない、何故か人間関係の肩こりがフッと軽くなるような映画でした。
「メランコリック」(2019)主演: 皆川暢二 磯崎義知
東大は卒業したけれど意味を見出せず、就職もせずなりゆきで銭湯のバイトを始めたその場所は、夜には頼まれた殺人を処理するには最適な場所だったという現場を目撃してしまったちょっと世界を斜めに見ているひねくれ気味のちょいダサめ主人公の男性。というあり得ないような状況の上に、特に派手に目立つキャストが居る訳ではないのでそんなには期待せずに観始めたサスペンス銭湯コメディ。
まず殺人の現場を見てしまいそのあとの掃除を頼まれ、それをやたらと責任持ってしっかりとやり切り想定外の収入を得たことで今までにない仕事へのやりがいへの高揚感が高まる主人公のダサめな男性に、最初は緩くイラッとしていたのに可愛く見えてきてしまい何故か応援したくなってしまうのです。次の仕事(殺人)も自分に任せて欲しいという高ぶりを同期に奪われてしまうが、その同期は高等な殺人をするプロだった…が主人公にとっては殺人はもうビジネスになっているので怖いながらも羨ましさと嫉妬が沸いてくるのです。何にもなりゆきで過ごしていた彼が、場所や仕事はどうあれ感情が動かされる経験を積むという点が楽しく、人と人の縁って面白い、と思えます。
今まで観たことの無かった殺人+銭湯=あったかいコメディとなった新しい公式の生まれた邦画でした。
「殺さない彼と死なない彼女」(2019)主演:間宮祥太朗 桜井日奈子
予告を観ても映画のポスターを見ても、ちょっと苦手な部類のツン彼ウツ彼女の青春恋愛日記の雰囲気だったので観る予定はなかったこの作品ですが、いざ観てみると元々4コマが原作だからなのかキャラクターの設定や、そのキャラクターに合った考え方や台詞などが絞り込んでいたのでちょっと気になるところが段々と増え、観始めて1時間少し経つと、キャラクター全員に愛情を感じて高校生ならではの不器用さや葛藤に純粋に応援したくなる自分に気がつきました。
「死ぬ」といってリストカットを繰り返している彼女と、「殺す」と言って守る彼。
「好き」と毎日伝える彼女と、「好き」が分からない、けど分かりたい彼。
「可愛い」と言われたい可愛い彼女と、可愛い子をちゃんと「可愛い」と言う地味な彼女。
凸と凹がうまく重なるときって本人達はいまいち実感が無く、そして完成する関係性に疑問と恥じらいが交差する様を見たような気がします。
最後にはタイトルの意味がより分かるような流れになっており、生きるとか死ぬとか好きとか可愛いとか、言葉は生き物なので常に変化し無垢な10代の子達には扱えない事も多いのかもしれないと思えてしまいます。すごく当たり前のようで大人にも困難な時があるけれど、人を助け自分を守る言葉を使い続けて前を向いてみたいと思える予想外に良い映画でした。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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