新しい風を滞らせないように

岩上 喜実

私という性格を、やっと私自身が最近ようやく分かってきたような気がしています。

学生の頃引っ越しや転校が多かったのですぐにその場に馴染み染まれるように柔軟な考えと立ち振る舞いをを心掛けていたと思えば、それはただ単に本音をあまり言わずその場が丸く収まるような行動や言動を優先して選んでいたというだけだったのです。

仕事に関してはなるべく周りに気を配って、誰もが楽しいと思える職場にしようと謎の使命を感じていたような気がしますが、実際はそんなに気を付けなくてもそれぞれ一緒に働く人とちゃんと話をし考えを共有し、立場関係なく人として尊敬できれば楽しくしようと考えなくてもナチュラルに職場として緊張感と楽しさが成り立っていくものなんだとも思えるようになりました。

 

そして柔軟だと思っていた私は、とてもとても頑固で一度決めたら目標までは何が何でもやり通すという性格だというのも分かりました。ですがそれは一人で出来る事なんてほんの少しの事だけで、周りの人達のおかげで目標達成は成り立っていることも忘れたくないと思っています。

絵でお金を頂けるようになること。

本を出版し海外でも出版すること。

書店員になって本の流通の仕組みを知ること。

そして始めたカフェを10年は必ず営業すること。

 

何も分からないまま始めたカフェは9月で10歳になります。

大好きだった書店員を辞めて、当時のパートナー(現主人)と飲食の経験がほぼないのにカフェを始めるという今思えば不思議でしょうがないスタートを切りました。

準備の段階から不安で、開店してからも不安で毎日毎日泣いていたのも、軽々しく始めた自分のせい。色んなスタッフと衝突し、申し訳なさと情けなさで誰も信じられなくなっていたのも自分のせい。売上が全く上がらず、ネットにも酷評悪評ばかりで最後に〝デブが店に立つな〟という文字を見てからは、何もかも自分のせいだと思えば楽だと思っていたのですが、仕事が全く楽しくなくなっていた事に気付き、ずっと何でカフェを始めたんだろうと思うようになっていました。周りに嫌な思いをさせ、そこまで目標の達成だけに辛い思いをしなくてはいけないのかな、と思うようになっていました。

 

ですが数年経つと危機がある度に助けてくれた人も多くいたという事が見えてきました。

パートナーはずっと色んな面で支えてくれていたし、家族もずっと応援してくれる。友人は私が大きな病気をした時に大勢で集まってくれたくさん元気をくれたし、何も無くても気にかけてくれる友人もいる。

そしてお客さまもとても素敵な人が多く、接客をしていると私自身がいつも元気をもらっていました。このお店で知り合い、ご結婚し、今はお子さまと来店されることも幸せを感じます。

勉強していた学生さんが社会人になる姿も、小学校の入学式の後にお食事に来てくれたお子さまの卒業式の後にもお食事に来て下さるなど、1年や2年ではあり得なかった嬉しさが今の私を作っています。

そして何より一緒に働いてくれているスタッフがいつも危機を一緒に乗り越えてくれたおかげで、10年という開店の時は無謀だった目標が叶ったと思っています。10年の間には色んなトラブルが本当に多くて、その度に助けてくれたスタッフの事は一生忘れないです。

今では違う道を歩んでいるあの時のスタッフも、今一緒に笑いながら頑張ってくれるスタッフも、もし困ったことがあればすぐ助けにいきたいと思える人と沢山出会えました。

 

そして今は店長という立場を退き、新しい店長にお店を引き継いでいます。

数年前に手術をし、今もまだ治療をしており体力面の心配や、会社としてずっと私がこの位置にいるのはお店の中に吹く風が滞ってしまうのではないかと少し前から思っていました。

メニューや仕事内容など、基盤を作って新しいものを取り入れてくれる事を期待して1年引き継ぎをしマネージャーという立場になりました。

私が開店したときにした悔しい思いや、二度としたくない失敗を事前に回避できるものはこうやって回避するという事を伝えつつ、見守っていけたらと思っています。

ですがお店に立つのがとても好きなのは変わらないので、迷惑にならないように一生懸命今までと変わらず働こうと考えています。

 

開店の時はふわふわとした、何か好きな地元で色んな世代の人が気軽に集まれる場所を作りたいという思いはより具体化し地域のお店としてまだまだ頑張っていきたいと思っています。

私は、結局たいして頑張ってなんかいないのです。

一人で目標なんて達成出来るほど強くないし、これからも不安は沢山あります。

ただ、頑固に目標を持つことはこんなに気持ちが豊かになるという事に改めて感謝して明日も明後日も、ずっと歩いて行こうと思っています。

 

本当にありがとうございました。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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