②わたしはなにさま

岩上 喜実

女性の20代から30代にかけての間に何度傷つくことがあるのだろうと考えた事があるのですが、女性には普通に仕事をして普通に友人や恋人と遊んでいるだけで世間や同性異性からの言葉に隠された先の尖った刀が何度も急所にザクザクと刺されることがあるのです。

それは結婚が早いと「もっと遊べば良いのに」と悪意無く言われ遅いと「理想が高いのかな?」と気の利いたつもりの慰めのような言葉が刀となって誰にも見られない胸の奥に刺さってくるのです。

そして出産が早くても遅くても、仕事を続けても辞めても、老けても努力して若さをキープしても、何をしても正解などなく何気ない言葉にザクザクと刺され痛くないふりをし、自分で治癒する能力だけ長けていくのが時々空しく私の生き方は正解ではないのかもしれない…と、一人になると泣きたくなる位とてつもない寂しい気分になりますが、朝起きたらそんなことは何も無かったかのように過ごさなければならないので空しさを積み重ねていくと胸に刺さった傷はカサブタになる頃また刺され、それを続けてとんでもない空虚感が生まれるのです。

今はどの立場の女性も呼ばれたら少し哀しくなってしまうネーミングを着けられることが多く、出産ひとつとっても妊娠して少し以前のように動けなくなっただけで『妊婦様』と呼ばれ、無事に出産し外食やお買いもので子どもが少し騒いだだけで『子連れ様』と呼ばれ、子どもが中々授からず不妊治療をしていると『不妊様』と呼ばれ、身体の事情や夫婦感の結果子どもを作らない選択をすると『子無し様』と呼ばれる始末なのです。

このネーミングだと、どの選択をしても世間から虐げられているような気持ちになり、それが同性の友人にも言われているのではないかという妄想に襲われ歪んだ関係の始まりになってしまうことがあるのです。

子どもを授かって出産までお腹の中で大切にしながら通常の生活や仕事を頑張っている人の方が多いのに、一握りの傲慢になってしまった妊婦の方がいた為このような悪意しかないネーミングがついたと言われていますが、それに続くように色んな立場の女性を分かりやすく分類するためだけのこの名前にはどう過ごしても女性が自由になんてなれないとても重い重い鍵付きの鎖が手足に絡んでいくような気がします。

その重い鎖のような分類分けの言葉は何故かデリカシーのない同性が発することが多く、ここまで言わないにしても28歳や29歳の人は「30歳になったら終わり」のような発言を同級生同士で言うのは分かりますが、色んな世代の女性がいる中でネタとして話すのはあまりにもセンスがないと感じさせる女性もいますし、中々子どもを授からない既婚女性に向かって「子どもはいいよ~、早く産まないと身体がきつくなるよ?」と平気で言うお母さんになった同性も多いです。それは経験者からのアドバイスだったり、自分の理想や考えを発信するのは悪いことではないのですが同じ境遇や生活スタイルの人に話す内容を、色んな生活スタイルを持った人に話すのはかなり勇気のいることですしそのまま発言をすると『自分の世界が世間の常識』という様にとらえられてしまいデリカシーのない女の出来上がり、という事になってしまうのです。

こういった事を考えすぎてしまうと何を話したらいいのか分からなくなりますが、色々なことに敏感になってしまう20代30代の女性と接する場合、色んなスタイルの方とお話しする時は様々な状況に置かれているのを想定し女性の気持ちを鮮やかにイメージするようにしています。

お仕事でも家庭でもお友達と過ごしていても、この世代の女性達は笑顔で過ごしていないとすぐに人と違う点を突かれることが多くあえて頑張って笑顔で過ごしていることは異性は勿論のこと、同性にも気付かれにくいものなのですが、その中で色々な女性の気持ちを想定し傷つく言葉を言わない、使わない事を実践するのも大人の女性あるべき自然な行動だと思っています。

仲間内だから、同じ境遇だから、ノリで面白く言うから、というのは何の言い訳にもならずデリカシーや配慮を持ち合わせた発言をしていかなければ周りは敵だらけになる、という事も分かった事のひとつでした。

雄弁は金でも銀でもなく、かといって沈黙が金でも銀でも銅でも無く、人を気遣える立ち振る舞いの弁が出来る女性が20代30代の女性で金に値するのでは、と感じていたのでした。女性との会話は難しく、ですがとても面白いものなので人を傷付けるような言葉はチョイスしない大人になりたいなと思っています。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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