金曜22時、優しくなりたい

岩上 喜実

前回の月曜9時のドラマ枠のようにどうしても観てしまう枠が私にはあって、歴史はまだ浅いですがNHKの金曜22時(最初は火曜22時枠)のドラマ10という枠。この時間帯のドラマはどんな内容でも欠かさず観るようにしています。

その理由は本当に単純なものですが、NHK特有のCMがないので入り込みやすいという事と、音楽や台詞の音が他の局のドラマより少しだけソフトな気がしています。画像も独特なフィルターがかかっているのでどことなく目に優しいような気もし、そして金曜の22時というと、カレンダー通りのお仕事の方にとっては1週間の疲れがどっと出てきて明日は休みだし少しゆっくり夜時間を楽しもうかな、という気持ちの上での極上のリラックスタイムの中でのドラマなので少し立ち止まって人生を考えさせてくれるような内容が多いような気がします。

その中で特に気に入っていたこの枠のドラマをご紹介します。

「この声をきみに」(2017)

話すことが苦手な数学講師の男性の妻が子どもを連れて出て行ってしまい、話し方を変えようとした教室での出会いをきっかけに朗読教室で朗読をしていくというストーリーですが、このドラマの中には様々な懐かしい本が登場し内容を詠ませてくれるので自然と自分も声をだして朗読をやってみたくなる、不思議なドラマです。

大人になってからの習い事はその習い事自体に魅力があるからというのもありますが、そこに集まる人達との出会いもとても大切でかけがえのないものだとよく分かる気がしてきます。

「紙の月」(2014)

角田光代さん原作の映画化も話題になった作品ですが、私の中ではドラマの原田知世さんという妖精のような女性が40代以降の女性の様々な立場や心情をうまく表現しつつ、透明感ありながら銀行員として横領をしているアンバランスさと、人はどの立場になっても「あの時、あの道を選んでいたら」という問いかけは思いの外長い間止むことはないという悲しさを味わう事の出来るドラマでした。

「運命に、似た恋」(2016)

様々な評価の的になっている脚本家、北川悦吏子さんのNHKドラマはやはり女性の童話のような現実的なようで非現実的なストーリーは突っ込みどころも沢山ありますが、流れる音楽がとても好きで毎回楽しみに観ていました。私はきっと原田知世さんの透明感とNHKの融合がとても好きなのだと思います。

「八日目の蝉」(2010)

こちらも映画化され大変話題になった作品ですが、このストーリーは2時間強の一気に観るタイプの作品では無く数回に分けて観るのがピッタリな作品でした。それは浮気相手の子どもを誘拐し、自分の母性のまま本当の親子として世間から逃げながら暮らしていくのを表すのは2時間強では物足りなくなってしまうからだと思います。

「さよなら私」(2014)

大体からだが入れ替わるといったSFストーリーがあまり好きではないのですが、かつての親友だった女性二人の心情が不倫や子どもの事でうまくまとめられていたのと、永作博美さんと石田ゆり子さんの清潔感ある佇まいに惹かれて観ていたような気がします。隣の芝生は…といった単純な式では無く、歳を重ねた女性ならではの複雑な心情が描かれていました。

「下流の宴」(2011)

黒木瞳さんといえば誰が見ても文句なしの美人女優なのですが、この作品の人を差別し、自分の常識に合わない人を差別していく、自分の子どもが愚息だとは気付かないどこかお気楽な主婦を演じるのがとてもチャーミングで嫌な女性に仕上がっている所がとても魅力的なドラマでした。

NHKというと朝ドラか大河だった時と比べて、30代からの女性にソフトに訴えかけてくるドラマが増えたように思います。

何かをふと思い出させてくれ動きだす一歩をくれる、そんなドラマに出会えて幸せだと思っています。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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