あえてイライラする本を読む意図
人には喜怒哀楽があって、それが人生を面倒なものにしたり面白いものにしたりする要因だったりするんですよね。
喜びは生きる愛おしさを、怒りは生きる悔しさを、哀しみは生きる孤独を、楽しみは生きる活力を私に教えてくれているような気がします。ですがバランスの良い食事を毎日、というのが難しいのと同様にバランスの良い毎日は中々難しく怒ってばっかりの日もあれば、哀しくて涙が止まらない日もあれば、グウタラしすぎて逆に疲れたなんて日もあります。
まんべんなく、バランスよくなんて都合がいいのですが、小説を読んでいると足りなかった感情が補充されていくような感覚になります。
普段仕事以外はボーッとして怒るのが面倒な私に、日々足りてない怒りの感情を補充するのも小説からです。
怒りなんてなくてもいいんじゃない?と言われますが私の中で怒りの感情は情熱と同じで、ムムムと怒りが湧いてきたら同じように情熱度が上昇し次の仕事の意欲に繋がるのです。怒りの感情を注入してくれる作家さんはその感情のタイトル「怒り」という小説も出している『吉田修一』さんです。
吉田修一さんといえば映画化されている物語が多く、賞も沢山獲られているので読んだ方も観た方も知っている方も多いと思います。
「怒り」「さよなら渓谷」「横道世之介」「悪人」など話題になった映画ばかりですが、何より吉田修一さんの文章がとても頭に入ってくるのです。眼で読み心にそのまま落ちていくのではなく、まず頭を経由して心に落ち全身に伝わる感覚です。その分、気持ちが悪くなる描写や流れになっても一度冷静になって心に落ちていくので本当に不思議な文章だなといつも思っています。
初めて読んだのは「日曜日たち」(06)という5編の連作短編小説でした。「日曜日のエレベーター」「日曜日の被害者」「日曜日の新郎たち」「日曜日の運勢」「日曜日たち」と最後まで読んでいくと気楽な気持ちで読んでいた短編が合わさって1編の小説になっていく感覚がとても気持ちよかったのを覚えています。この作品ではまだ怒りの感情は注入されませんでしたが、なんて読みやすいんだろうと入り口を開いてくれた1冊でした。
その後新刊が出る度に読んできましたが、有名な「悪人」を読んで私自身の認めたくなかった、怒りは情熱に変わるという感情がハッキリしたのです。
この作品を購入した時は分厚い本が2冊、読めるかな…と少し諦めながら寝室で読み出したのですが、止まるページが分からない位一気に読んでしましました。文章の読みやすさは分かっていたのですが、こうも何故イライラしてくるのだろうと読んでいる間はずっとイライラしていました。誰が悪人なんだろう?という事はまるでどうでもよく、このイライラを早くどうにかしてと思いながら読み終わっていました。
誰が悪人だろうが善人だろうが構わない、自分の目の前にあることが全ての本当だという事が何故分からない?と怒りで熱が出そうでした。
そしてその怒りは、「私は善人じゃなくてもいいから目の前のことにしっかり向き合おう」という仕事への情熱に変わりました。子どもの頃、転校先でいじめにあった時も環境や意地悪な子が正義ぶって振る舞っているのがどうしても許せなかったのです。「私は間違ったことは言っていない、悪いのはあの子だ」と毎日思いながら学校に向かっていましたが、教室に到着すると悪は私、悪は退治される。という図式になっていたのです。
運が良くその悪の図式から離れることが出来ましたが、子どもながらに思った事はいつの時代も不透明な悪は必ず存在し怒りが無くなるなんて事はない、という事でした。無くなることがないのなら向き合うしかない、何かに変換するしかない、といじめにあっていたあの頃の悪を思い出す作品です。
そして映画も話題になった「怒り」ですが、「悪人」ほどザラついたイライラはないにしても出口が見えづらい怒りでいっぱいになりました。
単純に、私は仕事や家族や友人の事が運良く大切な存在ですが、少しの違いで見方が全く違い、何が面白いか何が愉快なのかが、見た目は同じ人間なのにかみ合わない人物もいるということ。それが分からず大声を上げている人もいるということ。そしてそれは出口が無いということ。「悪人」とは違った悪と怒りの見方が出来た作品でした。
吉田修一さんの作品は普段あまり飲まないハーブティーを飲むことが多いです。
やはり、どこかで怒りの感情を抑えたいと思っているのかもしれませんね。
「日曜日たち」講談社文庫 9784062753593
「悪人」朝日文庫
(上)9784022645234(下)9784022645241
「怒り」中公文庫
(上)9784122062139(下)9784122062146
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