がんが教えてくれたこと

岩上 喜実

今年のはじめに乳がんが発覚してから今現在まで、長かったような早かったような10ヶ月間でした。そしてこのブログで発信できたことで何処かで彷徨っていた気持ちの整理が付いたような気がします。自分だけは大丈夫、と思ったことはありませんでしたが30代で発覚したのは色んな面で良かったのだと思えるようになりました。病気にならず健康でいることが一番だとは思いますが、自分の性格上自分以外の周りの人が病気になるより、自分がなった方が「都合がよかった」のです。

 

がん宣告を受けた日は、まるで死刑宣告を受けた気持ちになり色んな方面で「最期」を意識し何かやり残したことはないか、という事よりこの事を周りに伝えた時に、どういう自分でいたいかを考え自分の欲より大切な人達をどうやって悲しませないようにするかを考えていました。

正直に言うと、死ぬのはまだ怖いですし想像するだけで具体的な案は何も出てこないままですが自分が死んだ後、私の大切な人が笑顔で過ごして欲しいと思っています。がんになって良かったとはまだ思えませんが、自分の最期を真剣に意識し本当に大切な事が見えたことは私にとって幸せなことだったと思います。
経営しているお店がもっと繁盛して欲しい、というガツガツした欲からお客様も働いているスタッフも笑顔になるお店にしたいというシンプルなものになった途端、見えていた角度をぐるりと変えることができ注意すべき点やこれから成長して欲しい点が少しずつ見えてきたような気がします。

描いているイラストや書籍も、もっと描かなければ、もっと色んな国で販売しなければ、と思っていたのですが一つ一つの仕事を以前より丁寧に、そしてイラストを見た方が少しでも温かい気持ちになったり、楽しくなってくれればと思いながら描くようになりました。

そして人間関係もとてもシンプルになりました。以前にも少し記しましたが、私を大切に思ってくれている人を私ももっと大切にしたいと思っています。がんが分かってから今でもずっと毎日私を精神的にも支えてくれている主人を、もっと大切にしたい。自分の事のように心配してくれている両親や姉妹に、もっと笑顔を見せていきたい。頻繁に連絡を取らなくても何かあったらすぐに駆けつけてくれ仕事以外のダメな私を好きで居てくれる友人達と下らないことをもっとお話ししていきたい。一緒に悩みながら必死に頑張っているスタッフ達ともっと笑い合って働いていきたい。私には、本当に十分すぎるほどの人達が周りにしっかり居ることを教えてくれたのも、がんでした。

 

これがもし、もっと早かったり遅かったりしたらこのようには考えられなかったと思っています。色々欲張りだった去年までの自分の事も好きですが、色々な欲を削った今の自分の方がとても気に入っています。

薬をしっかり飲んで、副作用とも試行錯誤して付き合い、疲れたらしっかり休んで、回復したらしっかり頑張り、そして毎日笑う。これが今の私です。

以前の私よりはゆっくりのペースですが、歩幅を合わせて危険な道を一緒に歩いてくれ、何より笑わせてくれる大好きな主人と共に歩いていける幸せを噛みしめて生ける所までちゃんと楽しく生きていきたいと思っています。

 

乳がんという病気や、その他の様々な病気が少しでも減って欲しいと願いながらブログを投稿してきました。辛かった、頑張ったというだけではなく経験してみないと分からない治療法やかかる費用など「何だか怖い」から「こういう感じなんだ」と少し気持ちが軽くなる人が一人でもおられたら嬉しく思っています。

乳がん検査も勿論大切ですが、読んで下さった方が頑張っている自分の身体を労わり、パートナーの健康を気にかけるきっかけになれば投稿した意味があったと思えます。

 

8回の投稿、読んで頂き本当にありがとうございました。

次回からは以前のようなお気楽な内容になりますので、お気軽な気持ちで何卒よろしくお願いします。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
Non café
鳥取県米子市米原6丁目1-14
0859-21-8700
Facebook:https://www.facebook.com/Noncafe/?fref=ts
イラストと教室問い合わせ:nonillustration@gmail.com