嫌な気分になる、邦画5選
なぜ映画を観るかと聞かれたら「今の自分とは違う人生風景を見ることができるから」と答えると思います。
普段の私は嬉しいことがあれは普通に笑い、哀しいことがあれば普通に泣き、悔しいことがあれば普通にふんばるという見事に「普通」の感情を持っていますが、それは本当に普通のことなのか地面が揺らぐような衝撃を与えてくれるのが映画だったりします。
例えばなぜ人に悪口を言ってはいけないのか、それは人を傷つけてはいけないから。なぜお金を盗んではいけないのか、それは自分のものではないから。なぜ人を殺してはいけないのか、それは人が人の人生を終わらせてはいけないから。ですが、それは本当に合っているのでしょうか?
自分の常識は本当に常識なのか、極端な例を出しましたが人と交わる生活をしているのなら、私がこう思っているから周りもこう思っているに違いないという自分の常識という物差しに目盛りを合わせすぎないようにしなければなりません。
そういった常識、非常識の概念をぐちゃぐちゃにされる嫌な気分になる映画5選です。
「夢売るふたり」(2012)主演:松たか子、阿部サダヲ 監督:西川美和
人のつくウソを絶妙な感覚ですてきな映画にしてしまう西川監督のこの作品は、夫婦で営む料理屋が火事になったことで夫婦が様々な結婚願望の強い人をターゲットにし詐欺でお金を集める内容ですが、騙せば騙すほど、お金が集まれば集まるほど夫婦感の感情が当初の目的から揺れてしまう2人を観ているのがとても嫌な気分になります。
この西川監督の作品はどれも好きなのですが、この作品同様「ゆれる」や「ディア・ドクター」も観た後スッキリする気分にはなれず何が正解なのか分からなくなり自分の物差しの目盛りがあやふやになってしまう感覚になります。その、あやふやな吊り橋に立っているような感覚が少し癖になってしまう映画です。
「紙の月」(2014)主演:宮沢りえ 監督:吉田大八 原作:角田光代
テレビドラマ版の原田知世さんも素敵でしたが、映画版の宮沢りえさんも格別に良かったですし脇役も好きな人ばかりでしたが内容はやっぱりとても嫌な気分になります。
銀行の契約社員で働き、地味ながらも不自由ない生活でしたが子どもがいない夫との関係は希薄でどこか空しい毎日を過ごす主人公が、年下の恋人のため顧客の預金を横領してしまうことから激しい高揚感と少しの背徳感、そして平和な毎日から変化したかった自分の手を引っ張ってくれる年下の恋人にお金を渡したいという気持ちから横領の額もどんどん増え、自分をお金持ちに見せるため着飾っていくのです。
夫からは「どうせたいした仕事をしていないでしょう」という発言があり、人に頼られて自分を保つタイプの主人公が世間の常識から外れてしまったのか、それとも致し方ない事だったのか…横領を「しょうがなかった」と観客が思えてくるその時、同僚からまぎれもない「社会の正義、そして外れてはいけないルール」を諭されて目が覚めた思いになります。
この映画は単に年下の恋人に貢いでいく映画ではなく、社会のルールから外れていく瞬間瞬間を観せてくれ、それがとても嫌な気分になります。ですが、とても面白いです。
「スワロウテイル」(1996)監督:岩井俊二
R15指定になっているだけあって目を背けたくなる場面が出てくるのですが、20年近く経っても色あせない異国感とわいせつな空気感で何回観ても面白く、そしてお金に振り回される色々な人達が子どものように可愛くそれがとても哀しくて、儚いのです。
この監督の作品はどれも儚く未完成のような少年性があり、そして嫌な気持ちになる映画が多いのですがこの「スワロウテイル」は言葉の言い回しや役者の使い方、世界観、CGを使用しないアナログの色気が溢れるぐらいに出ているのが特徴的です。
そして毎回劇中で流れるフランク・シナトラの「My Way」で人生の歯車が回り始める怖さで泣いてしまうほど、とても好きな作品なのに不思議と観た後嫌な気持ちになる映画なのです。後悔を抱える人間はどこに向かえばいいのか、答えが分からないまま終わるのも魅力的に嫌な気持ちになります。
「百万円と苦虫女」(2008)主演:蒼井優、森山未來
ある事情で家を飛び出し百万円が貯まったら次の土地に行く、という根無し草のような生活をしている主人公の青春ムービーですが、その土地土地で出会う優しさと笑顔…だけではなく人の身勝手さや哀しみにも出会い成長していく姿は応援したくなるような、早く家に帰って就職見つけなよ、と思ってしまいたくなります。そんな青春物語を純粋に楽しめない自分にも、少し嫌になってしまう映画なのです。
「小さいおうち」(2014)主演:松たか子、黒木華 監督:山田洋次
山田洋次監督作品独特の魅せ方をしたこの作品は、昭和11年という時代の日本を美しくそしてピッタリすぎる奥様の松たか子さんと、お手伝いさんの黒木華さんのキャスティングに最初はワクワクしながら観始めましたが話が進むにつれ時代背景の戦争という避けられない重要な点と、許されぬ不実の恋が心をざわつかせモヤモヤと自分の笑顔が翳り段々と嫌な気持ちになっていくのです。もし時代が現代なら同じ浮気でも違う進み方をしただろうけど、根本である浮気は変わらないしそれに伴う女性の身勝手さが出ているのも嫌な気分ポイントで、松たか子さんってどの作品でもそういった女性の嫌な部分を表情で表現する女優さんなのも再認識した映画でした。戦争には色々な理由があるかもしれないけれど私にはやはり嫌な思いがするし、浮気も嫌いです、が、この映画も勿論素敵な映画です。
以上が嫌な気持ちになる映画5選でした。
嫌だ、と言いながらこれほど語れてしまうのは好きの裏返しだと自分でも分かっています。ですが、嫌と言わずには居られないほど魅力的な映画なのです。
良かったら、嫌な気分になるかもしれませんが機会があれば観てみて下さいね。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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