普通家庭の父親のチャンネル権力

岩上 喜実

私の家庭環境はとても〝普通〟に溢れていて、それが学生の頃はその平和な事がなぜだか少し恥ずかしくなったり、周りの友人達にかっこつけてしまうような所がありましたが今ではその普通の環境であることがいかに幸せだった事なのか身に染みる位分かるようになってきました。

その普通の暮らしというのは、両親が仲良く毎朝「おはよう」毎晩「おやすみなさい」を言える環境だった事。そして朝ご飯もきちんと用意してくれお弁当まで準備してくれ、帰ったら洗濯物が畳んであって家の中も掃除され温かい晩ご飯と、お風呂が用意されていた事。それが当たり前すぎて分からなかったのですが、大人になった今それがどんなに最上級の〝普通〟だった事なのかが分かりその環境を作ってくれていた両親には感謝しかなく純粋に親孝行したいと思わせてくれたのかもしれません。

ですがその環境のど真ん中にいた学生時代の私は、「周りの友達は門限なんかないのに何で私の家だけ門限があるんだろう」「なんで宿泊禁止なんだろう」「なんでピアス開けたらダメなんだろう」「なんで髪の色を変えたらダメなんだろう」と今思えば不良な事をしたがる私を学生の間だけは制御して社会に出たときの「なんでだろう」に立ち向かう気持ちを作ってくれたような気がしています。

そんな〝普通〟の我が家は、やっぱりみんなでテレビを囲んでバラエティやドラマを観るのも日常の一コマに過ぎずみんなで泣いたり、笑ったり、感動したり、怖がったり、そんな思い出もあるドラマって今でも観返したくなる時があるのです。

そんな思い出は、テレビのチャンネル権力を持っていた父親の好きなドラマをみんなで一緒に観ることが多かった思い出があります。その中でもNHKの大河ドラマは歴史好きな父親は欠かさず観ていて、朝ドラ好きな母親、大河好きな父親とNHKの思惑にどっぷりハマっていた家族だったのです。

その中でもそんなに歴史好きではない私が今でも覚えていて、すごく印象的だった大河ドラマは今でもまた観返したくなる時があるのです。

「利家とまつ~加賀百万石物語~」(2002)

それまで男性の主役ばかりでやれ戦いだ、争いだ、ばかりの大河で内助の功として夫婦の戦国時代を描いていたこの大河ドラマでした。今でこそ内助の功は当たり前に全面に出ている事が多いのですが、戦国の時代に妻である女性が男性に意見し、そして全力で支える姿がとても新鮮で男性が世の中で仕事を全力で頑張れるのは、安らげる家と妻の存在がとても重要なんだと思えたドラマでした。

「新撰組!」(2004)

三谷幸喜さんの新撰組はどんな風に描かれているか、とても楽しみに毎回観ていたのですがやはり今までの新撰組とは切り口が違い歴史にさほど興味が無い人にも分かりやすく面白くて泣ける大河ドラマだったと思います。どうしても仲間の決別や裏切りは片方だけ見てしまいがちですが、どちらにも沢山の事情がありそしてどちらにも大義がある、それが仲間の裏切りになってもしょうがなかった時代をとても観やすく表現してくれていたのです。最終回を迎える数回はずっと泣きっぱなしですごく記憶に残っています。

「篤姫」(2008)

薩摩の藩主の養女になり徳川13代将軍の正室になった篤姫の生涯を描いた大河ドラマです。夫の家定の死や公武合体、そして倒幕という波乱過ぎる時代の中で江戸城を開城に導いた女性の生涯は女性としては幸せでは無かったかもしれないのですが、その時代のやらなければいけなかった事を歴史に疎い私にも分かりやすく表現され、そして主演の宮崎あおいさんの演技が可愛らしかったり怖かったりと魅了され続けた大河ドラマでした。

きっと今でもあのとき家族と観ていたドラマを観ると、父や母、姉や妹に連絡をしてどうでもいい話をして笑い合えるような気がします。それがなんとも普通で、その普通がありがたく幸せな気がするのです。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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