文章の終わりと始まりを「つくる」

岩上 喜実

小学生だった頃、長いお休みの時には必ずあった読書感想文の宿題は私にとってとても好きな宿題の上位にいました。それはきっと物心ついた時には家の中の本棚から好きな本を取ってきて字も分からないのにページをめくる度に新しい世界が開かれるのが楽しくて、何回も読んでいるのでオチが分かっていながらも都度新鮮に驚きをくれる本の世界に浸かり始めていたのかもしれません。

いま文章が好きで、読むのも好きで、有り難い事に仕事に繋がっているのは本を読むことが楽しい、というあの頃の気持ちをずっと引きずっているのだと思います。

私には一つ上の姉が居て、その姉も本が大好きだったのでゲームをするより本を買って貰うことの方が特別な気がしていました。その様子を知っていた両親は日曜日の昼下がりには必ず少し大きい書店に連れて行ってくれ、その中から気に入った本を1冊、1週間かけて何度も何度も読むのが何より楽しかった思い出なのです。

絵本から国語の教科書や学校の図書館の本、そして漫画や少女小説やこども新聞まで読める物はとりあえず読んでいたそうです。そしてその挿絵を文章の隙間に描くことが多く、図書館の本は挿絵を描かないように両親が隠してくれていたそうです。

 

小学校の授業で出た作文を作ることが多くなった頃、今も覚えていますが国語の先生から文章をどうやって始めて、どうやって終わるかでその文章の良さが決まってくると教わり今でもそれはずっと頭の中に残っており、こういった文章を作るときはいつも始まり方と終わり方を考えて作成しているのです。

例えば書店に行って何か小説を選ぶとき、ペラッとめくって最初の一文や一章でときめくかときめかないか、あるいはワクワクするかしないかでその本を買うかどうかで決めています。何となくささくれのように小さい不快感がひっかかってしまったり、ちょっとだけ読む気が失せてしまえば、いくら面白いと評判がいい本でも自分にとっては今読む本ではないのかな、と一旦保留にしてしまいます。その位文章の始まりには責任があり、その物語に没頭出来るか出来ないかも決定づけているような気がしています。そして始まりの責任には覚悟の終わり方が待っており目的地が分からないままドライブに行くのが苦手な私は、文章も同じで終わり方をある程度決めておかないと始めることも出来ないのです。

 

まずは終わり方をどうするかが文章として一番気になる所ですが、言いたい事や伝えたい事を100%全て伝えるのか、それとも数割余韻を残して次に繋げるか、色々な終わり方があります。

どちらもメリットはありますし、そしてどちらもリスクはあります。全て伝えきると自分の思いは読んでいる側に曲がること無く全て伝わりますが、次に繋がる余韻は生まれにくくなります。ほんの数割余韻を残しておくと、次への期待感は増しますがその数割の足らず感が読み手によって都合の良い解釈に成り曲がった伝わり方になってしまう恐れも出てくるのです。どちらがいい、という訳ではありませんが例えばその文章を使うシチュエーションで使い分けていくと良いのだと思います。

みんなが小説を書いているわけではないので、仕事での指導マニュアルやプレゼン資料を作成すると考えた時、指導マニュアル一つにしても新人があとで読み返したときに答えがすぐに分かる使用法辞典の様な物が作りたい場合は余韻を残さず100%全て書き込んでしまうのがいいと思います。ですがそうではなく、数割の情報しか書き込まず余白を作り口頭で説明した物を新人が解釈し、書き込む事によって間違った捉え方をしていないか分かるようにするのも、どちらもマニュアルとして正解だと思っています。プレゼン資料も同様で伝えたい事柄を全て文字におこすか、数割を読み手にも参加して目の前で自分の言葉を足して完成した物を理解して貰うか、それだけの違いですがそこを最初に決めておかないと文章が何も始めることが出来なくなってしまうのです。

 

終わり方を決めてから始まり方を作る、そういった文章の作り方があり着地点を決めるからこそ迷わない文章の書き方もあるんだな、と思って頂けたら嬉しいです。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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