おしごとは、大変なんだけど

岩上 喜実

絵を描く人とイラストレーターを一緒にされる方は多くいますが、かなりかけ離れていると思います。
絵を描く人は『自分』を全力で出して認められている人で芸術家でありクリエイターです。イラストレーターは依頼の仕事があって、それに全力で答えなきゃいけません。自分をもっと出したい、これが自分だ、と思っている人はそれでクライアントさんからNOが出た場合、いくら何ヶ月かけて仕上げても報酬は無いのです。全てはクライアントの依頼があってこそのイラストレーターだと思っています。わたしは絵描きではなく、イラスト屋さん、そう気付いたらすごく楽しく描くようになりました。


前回お話しした転機ですが、それまで全く持ち込みや公募に出したことが無かった私がひとつ気になるジャンルが出来、それが合っているのかと見て貰ったのが始まりです。

ちょうどその頃、イラストとエッセイを組み合わせたコミックエッセイという分野が出始めました。日常を短い文章に合わせたゆるいイラストで成り立つのです。

「ダ・ヴィンチ」という本好きさんの為の雑誌での公募で、「コミックエッセイ大賞」というそれまで聞いたこともない応募でした。出版社も好きな出版社でしたし、その頃お昼に働いていた書店の仕事を終え夜帰宅してコピー用紙に描いた初めてのエッセイ。規定にはコマ割をと書いてあったのにそれを無視してA4いっぱいに描いて送ったのを覚えています。

一番上のA賞は該当者無しでしたがB賞を頂けて「あ、これかも」と人生すごろくの先が見えたような気がしました。そして何よりも嬉しかったのは担当編集者さんが付いたこと。

そして「岩上さん、書籍の挿絵決まりました。一緒にがんばりましょう」とその年のクリスマスイブに電話がかかってきたときは、家族用に買っていたクリスマスケーキをその場で落として人目がある中嬉しくて嬉しくて大号泣しました。私のしたかった夢が、すごろく10個飛ばし位でやってきた、親孝行できる。と泣きやむことができず降ってきた雪で火照った顔を冷やしたのを思い出す度、すごい幸運だったなと思っています。
流行の分野にのること、転機が来たときにすぐに対応できる瞬発力を付けること、自分の最終目標からぶれないこと。

文中に出てきた「人生すごろく」、これが私にとって大事な始まりだったのですが。

それはまた、次回に。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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