優しいのか怖いのかを曖昧に
書店員になる前の事ですが、私の中で文章を割と贔屓にしている事がありました。何故か男性の書く文章がほんの少しだけ苦手意識があったのです。きっと小学生の頃に読んだ男性作家の小説が怖くて恐ろしくて、夢にまで出てきたのが理由かもしれません。
そして文章が比較的柔らかな印象を受ける女性作家さんの小説を好んで読むようになりました。大人になると女性の方が怖いな、と思う事も多くなりましたが…
その小さなトラウマを変えたのが好きな作家『宮沢賢治』さんです。
宮沢賢治さんと言えば国語の教科書に掲載されていた作品が多く、もしかしたら固いイメージがあるかもしれませんが1冊読んでみると最初は苦味が多いのですが、自分で租借し飲み込んだ後には、まるで暖かい太陽で日光浴をしたばかりのふかふかの毛布にくるまれているような、じんとゆっくり心がぽかぽかしてくる文章にとても惹かれてしまうのです。
何故かその後、その暖かな布団を剥がされたり、またかけられたりを繰り返されますが…なぜだか何度も読んでいるのに、冬の寒い日にお部屋で過ごしている時、またふとした時に手に取りたくなる、この人の文章を自分の身体に染みこませたくなる、そんな作家さんなのです。
初めて読んだのは教科書に掲載されていた『注文の多い料理店』でした。小学生の頃はその丁寧でおかしげな文章と小さいドキドキとハラハラが癖になりながらも、唾を何度もごくりと鳴らしながらページをめくっていました。なんとも、ほっこりとはほど遠い童話ですが、大人になってから改めて読み返すと料理店の張り紙の言葉の言い回しのクスリとしてしまう面白さと不気味さ、大の大人2人が何故こんなにもあっさりと料理店主の張り紙に踊らされ従ってしまうのかと不思議で興味深くなってしまいます。
小学生の時に読んだきりだな、と思う方は是非手に取ってみると新しい発見が多いかもしれません。
『注文の多い料理店』を読んで面白いかも、と思われた方は『よだかの星』も是非手にとってみて下さい。子どもの頃は何だか小難しくて頭には入ってきても心に届くのに時間がかかり脱落してしまった想い出があり、それが悔しくて20代の頃再チャレンジをしてみたのです。
よだかとは夜だかの事で、お日さんの出るお昼には飛ぶことが出来ないのです。それを知ったよだかは夜のお星さんに近づきたいと願うのですがそれもはね除けられてしまいます。たかが鳥じゃないか。と言われ、その後もどうしようもなく悲しい言葉を突きつけられるのですが、よだかの最期は悲しいだけのものではなかったのが救いのようで愚かなようで、不思議な読後感を味わっていました。
そして最期は『銀河鉄道の夜』です。この作品は不幸な主人公の典型的な物語で、その主人公達が考える「ほんとうにいいこと」が善なのか悪なのか喜びなのか悲しみなのか、それを問いかけてくれた本でもあります。
善く生きるとは、正しく生きるとは、とても単純でいてすごく複雑で未だに私は答えが出せないままでいます。ただ、何度も考えていくにつれボヤッと形がみえてきたような気がします。自分にとっての正しく善い生き方。それを考えさせてくれた作品でした。
私の善い生き方とは、とてもシンプルで人の笑顔が見える行いをしたい。あれこれバカみたいな計算をせず、人の喜びが実る事をしたい。自分の名前のように生きたいと思っています。
宮沢賢治さんを読んだことがなかった方は、この3作品を読んでみると入りやすいかもしれません。そして読むときは必ずコーヒーを淹れ、ゆっくり飲みます。豆は好きなマンデリンでホワイトチョコのお菓子をお供にしています。
苦味と甘みを交互に口に入れ、苦味が多い宮沢賢治さんの本を読み、読み終えた後はふかふかの満たされた気持ちになるのを待つのです。
「注文の多い料理店」「よだかの星」「銀河鉄道の夜」
今回は沢山の出版社から出されているのでISBNコードは省略させて頂きます。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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