いつか死ぬ事を意識して生きる

岩上 喜実

普段のほほんと暮らしている私ですが人生で死ぬことを意識したことが今まで2回あります。私の中では40年近くで2回は少ない方だな…と勝手に捉えているのですが、理由は中学生の時の1年続いたいじめの時と最初の離婚の時なので良い風にとらえれば恨む相手を意識しての死だったのです。それは今思えば恨んだり悔しかったりする標的がいれば自分を自然に保護できる不思議な盾となっていて、死を意識してみたかっただけで本当にこの世からいなくなる、という事は分かっていなかったように思います。

ですが本当の死というものを2017年今年の始めの頃にがんが分かったことで初めて自分が死ぬということを意識したきっかけになり、そして身近な人が二人亡くなられたことでより死ぬまで生きるという事を感じることになりました。

身近な人の一人は、嫁いだ家の隣に住んでおられた「やすみさん」という男性です。初対面から冗談を言ってくるような明るくフランクな陶芸家さんで、いつも町内清掃や回覧板を渡す時に笑顔でお話しをしたり、お互いの作った自信作のお漬け物を交換するような仲でした。「お前が村八分にならんようにせんといけん」と何故か可愛がってもらい、実際やすみさんのお陰で知らない人ばかりの町内にすぐ溶け込めるよう計らってくれていました。そのやすみさんは今年の始めに積もった雪をかいている時に現れ以前より痩せた身体に驚いていると、がんになったと笑って話してくれました。その少し前にがんが分かった私は、痩せたやすみさんには自分の事など言えず「多分もうすぐ死んでしまうけん、生きとるうちは沢山笑っとかんと周りが心配するわ」と白い息をはきながらガハハっと大笑いしてくれたのを最後に、亡くなってしまいました。

そしてもう一人は、以前の職場で直属ではなかったけれど会社の上司の「くにやさん」という男性です。名字ではなく名前で呼んでいた上司のくにやさんは、書店員をしていて初めて担当の棚を持ったときに「とてもいい本を選んでいて分かりやすい棚だね!」と笑顔で褒めてくれ、それから色んな事を話すようになってお互いを名前で呼ぶようになっていたのです。その時の私は仕事に対して色んな不安や棚の売上げのプレッシャーなどで仕事中に厳しい顔をしていた事もありましたが、くにやさんはどんな辛い仕事の時も、偉い人がきても入りたてのバイトと話す時もいつも同じ笑顔で相手にプレッシャーを与えず仕事に対して深い愛情が感じられるような人でした。今までそんな年上の人に会ったことがなかった私は、笑顔でいることってなんて強くて素敵なんだろうと教わったような気がします。不機嫌な顔をして仕事をするのも、イライラして周りに八つ当たりするのも、弱い人がする行いなんだと思えたのです。

働きながら書籍を出版した時も「すごいなぁ、ノン(私の呼び名)は!」と手放しで喜んでくれ、書店を辞めて今の飲食店を始める時も「ノンなら良いお店になるよ!」と周りが飲食店なんて始めて失敗するに決まってる、と思われていた時に毎月のように食べに足を運んで来てくれ赤字続きで、何で飲食店なんか始めたんだろう、と思っている時も笑顔で食べに来てくれていました。

そしてがんが分かった時もいつもより少なめの笑顔でしたが「ノンなら大丈夫だよ」と言ってくれ、治療中はその一言が励みになっていました。その治療が少し落ち着いた頃、以前の職場の友人から訃報を聞き涙がずっと止まらないほど悲しかったけれど、どこかまだ居てくれているような気がして死を信じていなかったのです。ですが翌日のお通夜に行くと棺の中には生前のくにやさんのままの笑顔から少し出ていた八重歯を見て、本当に死んでしまった事にそこで気付き、またずっと涙が止まりませんでした。ですがお通夜会場のご自宅から駐車場までの道で見上げると、満点の星空と川のせせらぎ、木々の音がとても優しくて、まるでくにやさんが演出をしているようで会えないのに会いたくなってしまいました。死ぬって、会えない事なんだと心から感じたのはこの夜が初めてでした。

私はくにやさんのように周りの人に優しい存在でありたい、そして困っている人がいたら笑顔で「大丈夫」と伝えたい、と大切な事を亡くなってしまった大切な元上司から教わった気がします。きっとこの文章をブログに載せたことも、くにやさんなら笑顔で照れるなぁと言ってくれるような気がしています。

二人の死は、笑顔でいることの大切さを私に染み込ませてくれました。今も思い出すのは二人とも笑顔で声を出して笑っているところです。自分が死んだ時、私の笑顔を思い出してくれるような、そんな人になりたいと思いながら生きていくのもいいなと思っています。死ぬまで、笑顔でいたい。そう思って生けるところまで生きたいのです。

がん報告編、まだまだ治療は続きますがこれで一旦おしまいにします。読んで下さって本当にありがとうございました!励ましのお言葉や、優しいお言葉に甘えてしまって感謝する毎日です。もし、同じ病気で悩まれている方がおられ悩んでいたら、こんな気楽ながん患者もいる事が少しでも心が軽くなればと思って経過と変化した考えを綴っています。そして色んな病気で悩まれている方が笑顔になる日々を願っています。

次回からは気分で選ぶ映画(邦画)の探し方を12回に分けて送りたいと思っています。休日前のレンタル屋さんで悩んだ時に少しでも参考になるようまとめてみましたのでよかったら覗きに来て下さいね。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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