生活の恐怖と平和は背中合わせ

岩上 喜実

誰しも毎日を平和に争いなく過ごしたいという思いがあるのは当然ですが、予期せぬ非日常的な事件が起こることがあります。それは恋人の浮気や不倫かもしれないし、トラブルに巻き込まれて借金を負うことになるかもしれない、というまさにドラマのような事が起こる『かも』しれないという生活の恐怖と平和は背中合わせになっていて、それを体験はしたくないけれどのぞき見してみたい、という野次馬な心がドラマや映画を観る理由のひとつになっています。

今回は地上波ではなく、WOWOWのドラマをご紹介しようと思います。

観たことがない、という方ももしかしたらおられるかもしれませんが2003年からスタートしたオリジナルドラマは原作がしっかり面白く、キャスティングも忖度のない連続ドラマは観ていて安定感があるドラマが多いような気がしています。

「贖罪」(2012)

地上波でもドラマ化が多い湊かなえさんの原作ドラマですが、このドラマが一番『嫌なミステリー』そのままを映像化していてキャスティング、音楽、映像全てが原作のままだと感じています(最終回だけ少し不満はありますが)。愛する娘を殺されてしまった母親は、その時一緒にいた娘の同級生4人に犯人を見つけるか、それに応する償いをしろと伝え大人になってもその呪縛から逃れられない4人(蒼井優さん、小池栄子さん、安藤サクラさん、池脇千鶴さん)の悲劇を1話ごとに伝えてきます。

「パンとスープとネコ日和」(2013)

原作は群ようこさん、主演は小林聡美さんとくれば観ないわけにはいかないこのドラマは意外にもノンビリ、ゆったりだけのストーリーではなく亡くなった母のお店を継ぎサンドイッチとスープのお店をただ楽しいからという気持ちだけで続けるのは難しい事、お客様が沢山来る日も全く来ない日も同じように仕込み、日々を繋げ紡いでいく難しさと楽しさを描いてくれ、人はどこから来て、どこに行くのか交差する毎日の中で、笑い合える人がいるという素晴らしさを静かに教えてくれるドラマです。

「十月十日の進化論」(2015)

昆虫分類学者の女性が一夜の過ちで出来た子どもがお腹の中に居る間の時間を『進化論』となぞらえて産む決意を固めていく、という連続ドラマです。

映画「箱入り息子の恋」の監督で、少し駄目な大人達を愛おしさ溢れる映像にしており、難しいと捉えられそうな進化論という分野を分かりやすくアニメーションにしたりとても観ていて楽しめるドラマでした。女性の身体の中でおよそ10ヶ月も滞在し進化する胎児と、母親になる準備期間としての進化を観ているようで大きい事件はなくても妊娠そのものの偉大さが分かるドラマです。

「プラージュ」(2017)

訳ありばかりが暮らすシェアハウスの再生ストーリーで、泣かせたり、笑ったりという単純なストーリーだろうなと思いながら観ていましたが、住人達は何かしらの罪を抱えた人間ばかりで、人間らしく正しく暮らすってどういう事なんだろう?と基本的なことを聞かれているような気になります。そんな重苦しいようなテーマですが、オーナーの石田ゆり子さんのご飯は美味しそうだし、何だかドタバタしているので重くなりすぎず観られるのがとても楽しかったです。一番怖いのは日常に潜む犯罪が、自分には関係ないと思っていても知らない間に浸食してくる恐ろしさを感じたドラマでした。

「ソドムの林檎」(2013)

外見の美しさ故に偽りの愛情を受け自ら顔を醜く整形した結婚詐欺と殺害の容疑で逮捕された女容疑者と、醜さ故に愛されないと美しい顔に整形した女編集者の心の闇と事件と性への視点が見所になっています。映画界でも独特の存在感のある寺島しのぶさんが、女優なのに醜い女として演じきっているのも恐ろしく心を奪われ気持ち悪さも感じる程のドラマでずっと頭の何処かに残っています。

他にも暗く重いドラマ好きの私は、罪人を無実には出来ないが無罪に持ち込む事の出来る高級弁護士が主役の「罪人の嘘」(2014)、刑事と公安という別の立場で追い求めている正義の違いを描いた「血の轍」(2014)、ドストエフスキーの同タイトル原作を現代テーマにした「罪と罰」(2012)、製薬会社の隠蔽問題を描いた「誤断」(2015)、食品偽造と大企業の隠蔽を描いた「震える牛」(2013)も面白く観ていました。

本当に沢山の良品ドラマがあるのですが、それは読書好きにはたまらない良品原作本のドラマが多いからかもしれません。東野圭吾さんや池井戸潤さん、角田光代さんや宮部みゆきさんなど人気作家のまるで読書をするように観ることができ、それがよくある「キャスティングが違う!」という誤差もあまりないので読書後の心持ちと同じような気持ちになれるのです。

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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