イラストを「つくる」

岩上 喜実

イラストレーターのお仕事をして約20年になりましたが、有り難いことに途切れることがなくコンスタントにお仕事を頂いています。その時多いのが必要な事項を聞いてあとは「おまかせします」といった事もあれば細かいところまで確認しあいひとつずつ進めていく事もあれば、丸々全てご希望通りに描く事もあります。

 

そんな仕事のやり方が定番化していた頃自分のプライドというものはないのか、と自問する頃もありましたがよくよく考えると私のしたかった事は全ての仕事にどこかホッとするような箇所を入れつつクライアントの希望に応えることであって、アーティストのように自分の個性で100%勝負という事ではない、という自分の問いに対しての答えだったのです。そしてイラストレーターという職業は面白いものでただ「描く」だけではなく、イラストという形を「つくる」ものだと思っています。

描くだけなら紙と鉛筆があればいいのですが、それだけで終わるわけではなくきちんと段階があり①描く内容を整理し②ラフを仕上げ確認して貰い③下書きをして④ペン入れをして⑤着色をして納品という流れがあります。

 

その手順の中で①では担当の方と何度も連絡を取り合い、間違いの無いように情報を汲み取らなければいけません。間違いの無いように、かつスムーズにする為には締切から逆算するのではなく訂正がもしあったら…自分が病気になって遅れてしまった…納品した原稿が紛失してしまったら…などのスケジュールの急な変更を想定をして依頼があってから最短のスケジュールで組むようにします。取り越し苦労だと言う方もいましたが、スケジュールの為に中途半端なものを自分の名前で出すことが本当に嫌だったのです。イメージや資料が固まったら②ラフという下書きの前段階のような設計図を描き、この作業は完成イメージをより固めるためバランスなど計算しながらしっかりと固めていき、クライアントと自分自身の方向性が間違っていないかの確認をしていくのです。

ラフも何度も手直しを重ね、ようやく進めて良いという達しがでたら③下書きに入り、これはラフがきちんと出来ていればいるほどスムーズに描くことができるのです。ここは料理と一緒で、どんな複雑な料理だとしても下ごしらえや下味がしっかりしていたら一気にスピードよく進めることができ、描くのも迷い無くできるのでいかに①②が大切だったかが分かるのです。

下書き確認がOKと出たら、あとは④ペンを入れ⑤着色をしていくと完成です。その原稿は控えやデータを残しておき、担当者に納品してひとまず完成、という事になります。その後の訂正ややりとりはまだありますが、これでひとまず依頼されたイラストを「つくる」ことになったのだと思っています。

イラストを仕事として描くという作業は、思いつきだけでなく何を求められているかを考え、それに自分の経験や今までの仕事内容からの反省を活かした「私」という風味をかすかに残し、落とし込む作業なのだと思います。

ただ単に好きなように描くだけでお金になるのはイラストレーターではなくアーティストです。全て好きなように描くことができなくても、その中で自分を選んでくれたクライアントや編集の担当者に対しチームの一員として自分は「イラストを描く」というパーツになったのだと思いどこかに自分風味を少しでも残すことができたら、それはイラストレーターとしてとても幸せな一部分だと思えるのです。

次回は、完成に大切な下準備であるラフを作ってみますね。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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