サービスをする上で余力を残す意味

岩上 喜実

サービス業という名の付く職業は沢山あり、もしかしたらどんな仕事でもサービス業なのでは?と最近では思ってしまいます。人と接し、人を相手に様々なサービスを行うのですが、ふと『本当のサービスとは』と考えます。

人のために考え、気を配り尽くすこと。辞書を開くとこう出てきますし納得は出来るのですが今している飲食業でのサービスで尽くしすぎてはいけないのでは無いのかと考えています。手を抜くのでは無く、サービスされる側が100%と思って頂けるサービスをする事がサービスだと今の私は考えています。

沢山ある飲食店の中でこのお店を選んで下さったお客様に対し、決して後悔の無い時間を過ごして頂きたいのですが毎日お店をしていると思いもよらないハプニングがあるものだとこの5年で痛感しました。

お連れのお子様がお皿を割ってしまった、お洋服を汚してしまった、少しお声の大きいお客様が他の席の方の会話を遮ってしまった、急に停電になってしまった、お酒を飲み過ぎて倒れてしまった、トイレの水道管が壊れてしまった、お客様の側に虫が出てきてしまった…など数え切れない小さなハプニングから大きなハプニングまで経験してきました。


その時に常にお客様の事だけを100%で考えていると、咄嗟の判断や動き、他のスタッフに指示が出来ないことに気付いたのです。瞬時に判断が出来なければお客様にご迷惑がかかってしまい、嫌な思い出だけが残ってしまうのがとても悔しいのです。

 

そのためにはサービス業として100%の力を付け、本番では余力を残し常に90%の力でサービスをしたいと考えています。残りの10%分を『何があってもすぐに動ける』力として貯めておけば日々の仕事で慌てることも、焦ってしまうことも無くなりました。
その余力が無い頃は常に毎日100%で仕事をしていたのでとても疲れていましたが、そういった経験はしておくといいと思いました。そうしてイメージする事で経験値のおかげでそのイメージはより具体化でき自分のレベルアップに繋がるのだと思います。


そして数々のハプニングの自分なりの対応ですが、お子様がお皿を割ってしまったらまずはお怪我がないか確認し、食べ始めならすぐに新しいものを作るよう指示をします。

お洋服を汚されてしまったら少し洗剤を含ませたおしぼりとお湯で絞ったおしぼりをお渡しします。

お声の大きいお客様にはお水をつぎに行く際に、会話に少し合いの手を入れ「お客様、大事なお話が人に聞かれてしまいますのでもう少しだけボリュームを落とされた方が良いですよ」と伝えます。

停電になってしまった場合はすぐにブレーカーを確認し厨房には火の元と冷蔵庫の確認、ホールスタッフにはお客様のお席にキャンドル、お料理の具合の確認をします。冬場で寒い場合はガスでスープをサービスするなど一つ一つのお席の様子を伺います。

お酒を飲み過ぎて倒れてしまった方には回復体位(横にして両肘を曲げ、上になっている手を顔の下にし頭を後ろに反らせる)をとりひどい場合は救急車や同席の方と相談し対応します。

トイレの水道管は水道管の蛇口を閉め使用中止にしお客様の足下が濡れないよう対応。

虫は、もう紙でサッと採れるほど慣れてしまいました。そしてすべてのお客様にはお帰りの時に一言お話しをするとマイナスだった要素がプラスになって返ってくるのです。


ピンチはチャンスでは無く、ハプニングはチャンスのキッカケだと思います。ハプニングのままで終わらせず、サービスのチャンスだと思えば色々な視野が広がり、また経験値も上がっていくのだと思います。

 

その経験値をスタッフに伝えるのは大変難しいです。頭でっかちにならないよう、工夫をして指示をしているのですが…それはまた、次回に。

 

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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