何故の塊である、女の話を読みたい女の話

岩上 喜実

女というのは、女である私自身も未だに訳が分からないことが多いです。

「何故そこで泣く?」

「何故それで笑える?」

「何故そんな結論になる?」

何故ばかりで、非合理的で感情的で答えを急ぐくせにノリと笑顔で解決し、異性から見たらそれが面倒であり魅力的でもあるんだろうなと思っています。女として生まれたからにはこれを追求したいなと思いますが、如何せん男性は草食系だの肉食系だのとまとめやすいのですが、女は種類が多すぎて枠にはまる女性はそんなにいないのです。それが、とても面白く女性作家が好きな理由の一つでもあります。


今回は成熟した女性ならではの気持ちの良い気持ち悪さ、或いは気持ちの悪い気持ち良さが魅力的な『原田マハ』さんと『湊かなえ』さんです。
原田マハさんといえばデビュー作が第一回ラブストーリー大賞を受賞した「カフーを待ちわびて」が有名ですが、美術館のキュレーターをされていたので小説にはよく美術関係の話が出てきます。それもとても色鮮やかで絵を浮かべながら物語に入り込める、それまでにない感覚で胸が熱くなったのを覚えています。

お名前のマハはゴヤの「着衣のマハ」に由来しているそうです。そして受賞作「カフーを待ちわびて」や話題になった「楽園のカンヴァス」から読んでみるのも面白いですが、その他にも沢山作品がありますので私目線ですが初心者が読んでも楽しい作品をご紹介します。


「夏を喪くす」こちらは短編集なので気軽に読めるだろう…と思いながら読んで大間違い。特に「ごめん」「夏を喪くす」は一昔前のトレンディドラマのような女性が結婚、仕事、恋愛を楽しみ人生を謳歌しているのですが、突然でありリアルな出来事をきっかけに今までの『当たり前の生活』が、静かに緩やかに地面が歪んでいくという感覚。「何故、私が」と口に出して言いたくなる現実。華やかな20代を通り過ぎ、自分が確立される30代を通り過ぎる頃、何かが変わるのは当然なのかもしれません。

私も今37歳で今まで考えなかった事を考えるようになりました。ですがどんな起こりうる出来事も暗く死にたくなるような答えにならないのは、20代30代を真剣に物事を大切に考え育んで来たこと、それによって大切な人や守りたい人、逆に離れても構わない人、関わりたくない人が明確に判断できるようになったのが自信になっているからです。

この2作品の主人公は夫以外の男性に愛されている時に、自分の価値を見いだしている気がします。そこが、女性作家ならではの気持ち悪い気持ち良さだと感じます。


人の温もりという目に見えないものは、生きる喜びに繋がり、食べる楽しさに通じる「生きるぼくら」、言葉とはある意味直線で人と人とを繋ぐことが出来る唯一の手段じゃないのか、と思わせてくれる「本日は、お日柄もよく」。どれもお奨めの3冊です。
そしてもう一人、湊かなえさんといえば嫌なミステリー作家の『イヤミスの女王』と言われていますが、私は全く嫌な気分にはなりません。いつも気持ちの良い気持ち悪さを残してくれて、言葉は悪いですが何日も続いた嘔吐感がやっとなくなった夜中‪2時‬、という雰囲気をいつも残してくれます。

湊さんは本屋大賞を受賞した「告白」で人気作家になり、新刊が出る度話題の的で映画化ドラマ化も多く、どの作品も外れ無しのとても魅力的な作家さんです。その中でお奨めしたいのは私の中で湊かなえ感満載の「告白」と「贖罪」です。


まず「告白」は初めて読んだ湊作品で、言葉の使い方に全く不快感がなく、誰かの声で朗読されているような不思議と落ち着いた気持ちになりました。映画を観てからだと、この声は松たか子さんになりそうですが、まだ映画化はされていなかったので誰の声でもない声に「日記を聞かされている」感覚になりました。

そう、人の夢の話や日記の話なんて全く面白くないですよね。それで「聞かされている」感覚になったのを覚えています。椅子に縛られて目の前で聞かされている様な物語なのですが、最後まで読むのはあっという間でした。終わりはもちろんハッピーエンドではないのですが、誰もこの物語でハッピーは望んでなどいないので、とても気持ちが良かったのです。

そして次は「贖罪」ですが、こちらも映像化されていますが一度活字で読んで頂きたい1冊です。顔が歪んでしまったページもありましたが、テーマであるコンプレックスと償い。その二つが最高に気持ち悪いのです。でも、何故か少し分かる気もする。そんな自分も気持ち悪いと思いながら読んでいました。


そんな女性作家さんの本を読むときは、なるべく落ち着いて読みたいので保温機能のある水筒に白湯を入れ、一度頭をリセットできる酸っぱい乾燥梅をお供にしています。女性が本気になったらなんでも跳ね除けることが出来る、そう思ってしまいます。

是非、お試し下さいね。
「夏を喪くす」講談社文庫 ‪9784062773829‬

「生きるぼくら」徳間文庫 ‪9784198940140‬

「本日は、お日柄もよく」徳間文庫 ‪9784198937065‬

「告白」双葉文庫 ‪9784575513448‬

「贖罪」双葉文庫 ‪9784575515039‬

岩上 喜実
イラストレーター、イラストエッセイスト
18歳から書籍挿絵、企業キャラクター、CMイラストを描く山陰在住イラストレーター兼イラストエッセイスト。挿絵書籍と自身が描くイラストエッセイを合わせて、文庫化と海外出版含めて2005年から現在で29冊刊行。
2011年から始めた「ゆるイラスト教室」と同年プロデュースと店長をしている「Non café(米子市)」とイラストレーターを毎日のほほんと楽しみながら奮闘しています。
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